2020 Fiscal Year Research-status Report
性の生理メカニズムと環境応答進化を統合する数理的研究
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19K06838
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Research Institution | Tokyo Woman's Christian University |
Principal Investigator |
山口 幸 東京女子大学, 現代教養学部, 講師 (20709191)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 共生 / 発生多型 / bet hedging |
Outline of Annual Research Achievements |
多様な動物の性分化や性決定に関する内分泌学・生理学・分子生物学的な気候が急速に明らかになってきている。他方でその究極要因については、環境が適応度に与える影響の性差に注目した研究がなされてきた。本研究では、遺伝子ネットワークや発生的・生理的メカニズムを考慮したモデルの上に、自然淘汰や性淘汰が働くとき、どのような形質や環境応答が進化するかを探索するのが目的である。今年度は、3つのテーマに取り組んだ。 (1)植物と微生物の共生が成立する条件:陸上植物の中には、マメ科を始め根粒菌に光合成産物を与えて大気中の窒素を固定してもらう根粒共生をするものがいる。根粒を維持する上には大きなコストがかかる。どのような条件で根粒共生が有利になるか、根粒をいくつ維持することが有利かを考えた。その結果、土壌中の硝酸塩が少なく光環境が好適なときに根粒共生が有利であると予想できた(Kobayashi et al. 2021)。 (2) 海洋生物の発生多型:光合成するウミウシでは、卵の発生多型(直達発生タイプかプランクトン幼生期を経るタイプ)が見られる。どちらのタイプが進化するか、あるいは共存するのはどのようなときかについて解析をおこなった。その結果、移動性が低いタイプ(直接発生タイプ)での密度効果と、環境の時空間的ばらつきによるbet hedgingが2つのタイプの共存を可能にすることがわかった。2021年5月に国際誌に受理された。 (3) 無性生殖から有性生殖への切り替え:ワムシとミジンコでは好適な環境条件下では無性生殖が行われ、効率よく増殖する。しかし、生育に不敵な環境が予測されると有性個体が出現し、それらが交尾して耐久卵を算出する。生殖の切り替えが起こる条件について、bed-hedging理論を作成して解析をおこなっている。昨年度に引き続き、解析をおこなっているが、まだ解決できていない問題が残っている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
今年度実施した3つのテーマのうち、(1)はすでに国際誌に掲載済みであり、(2)は2021年5月に国際誌に受理された。(3)についてはまだ未解決の問題が残っているが、解決の見通しは立っている。計画以上に研究が進んでいると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
(1)無性生殖と有性生殖の切り替え 大部分のミジンコ種において、幼若ホルモンを作用させると雄が産出されること、またワムシにおいても幼若ホルモンが有性生殖を引き起こすことが、近年確認されている。そこで、幼若ホルモンの生産や分解のダイナミックスを考え、それらを制御する酵素と環境シグナルを考慮した力学系モデルを展開し、雄が出現する条件を明らかにする。
(2)遺伝性決定と環境性決定 脊椎動物の性決定や性分化には多数の遺伝子の関与とともに、性ホルモンが極めて重要な役割を果たすことがわかっている。各アレルが温度依存性の異なる酵素をコードし、産卵時点における温度に基づいて反応することで性が決定されるとき、与えられた環境に応じて、異なるアレルが雌雄を決める遺伝性決定と、同一のアレルが温度によって雌雄を変える環境性決定のいずれが進化するかを計算する。
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Causes of Carryover |
2020年度に中国で開催される国際会議に招待講演者として出張を予定していたが、コロナウイルス感染拡大により、キャンセルとなったため。 また、共同研究者との打ち合わせ出張や国内学会もキャンセルまたはzoomでのオンライン開催となったため。 次年度は原著論文をオープンアクセスにすること、また新たな計算機を購入する予定である。
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Research Products
(8 results)