2020 Fiscal Year Research-status Report
スナガニ類のwavingの起源は、感覚トラップか?
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19K06841
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Research Institution | Kumamoto University |
Principal Investigator |
逸見 泰久 熊本大学, くまもと水循環・減災研究教育センター, 教授 (40304985)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | waving / 感覚トラップ / 進化 / 逃避 / シオマネキ / スナガニ / シグナル / 交尾 |
Outline of Annual Research Achievements |
多くのスナガニ類は、ハサミをリズミカルに動かすwavingと呼ばれるディスプレイを行う。wavingは求愛や威嚇などの機能を持つが、まったく行わない種類(オサガニなど)も多く、その起源や進化については不明な点が多い。いくつかの種類(ハクセンシオマネキやチゴガニなど)では、オスがwavingで放浪メスを巣穴に誘引し、巣穴内で交尾を行う。私は、『スナガニ類のwavingには感覚トラップが強く関係しており、巣穴を持たない個体(放浪個体)が一時的に他個体の巣穴に逃げ込む時に、ハサミの動きという視覚的刺激に誘引されたのが起源である』との仮説の元に研究を続けている。 2020年度は、頻繁にwavingを行うハクセンシオマネキとwavingの頻度が低いコメツキガニを対象に研究を行い、次のことを明らかにした。1. ハクセンシオマネキのセミドーム(巣穴の入口に作る砂の構造物)は、繁殖期・非繁殖期共に、雌雄の放浪個体を誘引する機能があることを明らかにした。この結果より、本種においても「セミドームを目印に放浪個体が巣穴に逃げ込む」ことが明らかになった。2. ハクセンシオマネキのハサミモデルを使って、わずかなハサミの動きが雌雄の放浪個体を誘引することを明らかにした。この結果は、「巨大ハサミのわずかに動きを目印に放浪個体が巣穴に逃げ込む行動がwavingの起源である」ことを示唆している。3. コメツキガニではwavingの機能が明らかになっていないが、wavingを行ったオスでは、接近するメスが多く、巣穴内交尾の成功率が高いことがわかった。この結果は、コメツキガニにおいてもwavingが巣穴内交尾にプラスに働くことを示している。 ただし、『wavingが感覚トラップ』であることを示すには、wavingが繁殖とは無関係の何かに擬態していることを示す必要がある。これについては、まったく不明のままである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ハクセンシオマネキが巣穴入口に作る砂の構造物(セミドーム)が繁殖期・非繁殖期両方において、 雌雄の放浪個体を誘引することを明らかにした。これは、先行論文(Kim et al. 2017)と異なる結果で、今後の研究の発展に繋がるものである。 また、チゴガニの放浪個体が、巣穴個体のハサミやハサミの動きを目印に、巣穴に逃走することを明らかにした論文を国際誌に掲載した(Sakugawa et al. 2021, J. Ethol.)。さらに、ハクセンシオマネキのハサミモデルを使って、モデル選択実験を行い、静止モデルよりも、わずかに上下するモデル(1 cm)の方が雌雄の放浪個体を誘引することを明らかにした。これは、「巨大ハサミのわずかに動きを目印に放浪個体が巣穴に逃げ込む行動がwavingの起源である」ことを示す糸口となる。ただし、『wavingが感覚トラップ』であることを示すには、wavingが繁殖とは無関係の何かに擬態していることを示す必要がある。これについては、まったく不明のままであるため。
Sakugawa, N., Kasamura, K., Christy, JH., Henmi, Y. (2021) Claws and claw waving attract both sexes in the dotillid crab Ilyoplax pusilla. J. Ethol.
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Strategy for Future Research Activity |
『wavingの起源は、オスの巣穴個体のハサミやそのわずかに動きを目印にして放浪個体が一時的に巣穴個体の巣穴に逃げ込んだこと』であり、オスの巣穴個体はこの性質(放浪個体がハサミやそのわずかに動きを目印にして一時的に巣穴個体の巣穴に逃げ込む)を利用して、効率よく放浪メスを巣穴に誘引する。さらに、その後、『より大きなハサミの動きがより放浪個体を誘引する目印になったため、より派手なwavingが進化した』。このことを実験的に明らかにするために、以下の研究を行う。
(1) ハクセンシオマネキのハサミモデルを使い、動きの小さなハサミより、動きの大きなハサミの方が、多くの放浪個体を誘引することを示し、wavingが激しくなった要因を明らかにする。上下 0.5, 1.0, 1.5, 2.0 cmの組み合わせで、ハサミモデル選択実験を行う予定である。 (2) wavingをまれにしか行わないコメツキガニを用いて、wavingの機能を明らかにする。ハサミモデル選択実験およびオスのwavingに対するメスの反応を野外で比較する実験を行う。 (3) wavingを行わないオサガニも、わずかに動くハサミモデルに誘引されることをハサミモデル選択実験で示す。
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[Journal Article] The complete mitochondrial genome of Meretrix lusoria (Bivalvia: Veneroida: Veneridae) from Kumamoto, Japan.2020
Author(s)
Sung, C. H., Hsiao, S. T., Wang, L. J., Henmi, Y., & Huang, C. W.
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Journal Title
Mitochondrial DNA Part B
Volume: 5
Pages: 2451, 2453
DOI
Peer Reviewed / Int'l Joint Research
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[Journal Article] Genetic population structure of the fiddler crab Austruca lactea (De Haan, 1835) based on mitochondrial DNA control region sequences.2020
Author(s)
Tokuyama, T., Shy, J. Y., Lin, H. C., Henmi, Y., Mather, P., Hughes, J., Tsuchiya, M., Imai, H.
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Journal Title
Crustacean Research
Volume: 49
Pages: 141, 153
DOI
Peer Reviewed / Int'l Joint Research
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