2019 Fiscal Year Research-status Report
筋線維芽細胞の機能発現に焦点を当てた網膜変性疾患に対する創薬研究
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19K07351
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
林 謙一郎 大阪大学, 医学系研究科, 准教授 (90238105)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
木村 和博 山口大学, 大学院医学系研究科, 教授 (60335255)
中川 好秋 京都大学, 農学研究科, 准教授 (80155689)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 加齢黄斑変性 / 網膜変性疾患 / 網膜色素上皮細胞 / 筋線維芽細胞 / 瘢痕 / 血管新生 / 血管内皮細胞 / Benzoylphenyl urea (BPU) |
Outline of Annual Research Achievements |
加齢黄斑変性 (AMD) は血管新生とその破綻に起因する網膜変性疾患で、高齢化の進行により患者の増加が予想される。AMD治療薬として抗VEGF剤が使用されるが、根治的な治癒には至らず病変部で瘢痕(線維性増殖組織) が形成される。瘢痕は炎症に伴う新生血管破綻により筋線維芽細胞に形質転換した網膜色素上皮細胞(RPE)の増殖・脈絡膜への浸潤・ECMの過剰産生により形成され、視覚障害を起こすが、瘢痕に対する有効な治療薬はない。筋線維芽細胞機能阻害に焦点を当てた2つのアプローチ(① MRTF機能阻害化合物の探索と② BPU類縁体、BPU17を創薬シードとした研究)から根治的AMD治療薬の創成が研究目的である。 新規MRTF結合タンパク質はMRTF/SRF/CArG-boxを介した転写制御に重要な役割を担うことを明らかにしている。また、BPU17は、モデル動物を用いた解析で瘢痕形成を抑制することと初代培養RPEを用いた解析で炎症性サイトカイン(TGF-β)により形質転換したRPE由来の筋線維芽細胞の機能発現を阻害することを明らかにしている。さらに、BPU17は血管新生をも抑制する知見を得ている(初代培養血管内皮細胞を用いた研究)。 2019年度の研究の概要を以下に記載する。 ①に関しては新たなMRTF結合タンパク質のMRTFとの結合に必須のアミノ酸残基と3D構造の情報を基にMRTF-binding cavityに入り込みMRTFとの相互作用を遮断する低分子化合物の探索をDocking simulation法を用いて施行した。 ②に関しては血管新生に焦点を当てて、BPU17による血管新生阻害の分子機構の解明に向けた解析とin vitroにおけるBPU17の細胞毒性の検証を施行した。さらにBPU17類縁体(8種類)を合成し、RPE由来の筋線維芽細胞の機能発現に対する効果を検証した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
上記の項目①及び②に分けて進歩情況を記載する。 ① Docking simulation法を用いて新たに同定したMRTF結合タンパク質の3D構造から推測されるMRTF-binding cavityに入り込みMRTFとの相互作用を遮断する低分子化合物の探索を施行したが、MRTF-binding cavityに入り込む可能性のある低分子化合物候補を選定することはできなかった。その理由としてこの間隙のサイズが小さいことが挙げられた。 ② BPU17による血管新生阻害の分子機構解明向けた解析を実施し、この阻害機構の概要を明らかにするこができた。BPU17処理された血管内皮細胞(ヒト動脈由来の初代培養細胞)では細胞増殖・運動が阻害される。また、マトリゲル上で培養した場合には血管内皮細胞チューブ形成(in vitroでの血管形成)が阻害される。この分子機構を明らかにする目的で、BPU17処理で発現変化を来すタンパク質の同定を細胞運動に関わるタンパク質に焦点を当ててイムノブロット法(タンパク質レベルでの変化)及びRT-qPCR(転写レベルでの変化)を用いて解析を実施した。この結果、MRTF/SRF/CArG-boxを介した転写制御を受ける遺伝子群 (SMC 遺伝子) の発現が著明に低下していることが判明した。さらに、発現低下を来したSMC遺伝子の発現をsiRNAで強制的に低下させることで血管内皮細胞の増殖・運動及びチューブ形成が阻害された。以上の結果から、血管内皮細胞におけるBPU17の標的はMRTF/SRF/CArG-boxを介した転写制御にあることが明らかになった。 細胞から放出された乳酸脱水素酵素(LDH)活性を指標にしてBPU17の細胞毒性の検証を行い、BPU17及びBPU17類縁体は血管内皮細胞および網膜色素上皮細胞の何れの細胞に於いても有意な細胞毒性は検出されなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
上記の項目①及び②に分けて今後の推進方策を記載する。 ① 前述したようにDocking simulation法での目的とする化合物の探索は困難であることから、他の方法での探索を計画している。候補として3D分子模型を用いたINTENDD法による探索 [外部委託]が挙げられる。これと平行して、新たに同定したMRTF結合タンパク質のin vivoでの瘢痕形成への関与を検証する。具体的には以下の手法での検証を進めている。1)網膜瘢痕化マウスモデルの眼内へのsiRNAまたはshRNAを投与による目的タンパク質の発現低下が瘢痕形成に及ぼす効果を検証する(病理組織解析や免疫組織染色及びRT-qPCRによる関連遺伝子の発現解析)。2)目的タンパク質を欠損させたマウスでの網膜瘢痕化の検証。(すでに海外の研究者により確立されており、凍結精子を供与してもらい体外受精により遺伝子欠損マウスを作成して解析を行う) ② 現在、BPU17のin vivoでの血管新生抑制能を検証中であり、この検証を継続して進行させる。また、すでに合成済みのBPU17類縁体の瘢痕形成に対する効果をin vivo及び初代培養細胞を用いた解析により検証する。 更なるBPU17による血管新生阻害の分子機構解明のため初代培養微小血管内皮細胞を用いた解析を行う。この理由としてin vivoでの血管新生は既存の微小血管から血管枝が分岐して血管網を構築することが挙げられる。
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Causes of Carryover |
本研究の成果これまでに得た知見から論文投稿できる段階に達しつつあり、よりインパクトの高い論文にするためには動物実験や薬物の安全性試験等の創薬に向けた解析結果が必要であると考えている。これらの解析には費用がかかるため、前年度の研究はできるだけ費用を節約して施行した。この結果、「次年度使用額(B-A)」欄が「0」より大きくなった。この繰り越した金額は前述した解析費用に当てる予定である。
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