2021 Fiscal Year Research-status Report
腎臓の機能不全を起因とするがん進展メカニズムの解明
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19K07639
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
梶原 健太郎 大阪大学, 微生物病研究所, 助教 (30581102)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 腎細胞がん / CDCP1 / Met / HGF / 代償性肥大 |
Outline of Annual Research Achievements |
腎がんの罹患率、死亡率はともに増加傾向にあるが、腎がんの発症、悪性化に至る全体像は不明のままである。申請者は、腎臓の修復に関わるタンパク質として新たにCDCP1を同定した。このCDCP1は幹細胞マーカーとしての報告があるが、様々な疾患時に増加するだけでなく、腎がんの患者においても発現の上昇が認められており、予後不良とも関連が認められている。本研究では、CDCP1と協調的に機能する肝細胞増殖因子(HGF)の受容体Metとの関連を軸に、「腎臓の再生と機能維持」と「腎がんの進展と悪性化」というCDCP1の二面性を明らかにして、腎がん発症の理解と抑制を目指した基礎研究を展開する。 腎臓の再生と機能維持: CDCP1は腎臓の代償性肥大の促進に関わること、その過程にはHGF-Metシグナルによる細胞増殖と細胞外環境の再編成が重要であることが明らかになった。この研究成果を学術論文として報告した。 腎がんの進展と悪性化: がん細胞の解析では、CDCP1はHGF-Met依存的ながん細胞の浸潤に重要であり、ヘテロな細胞集団内においては集団的浸潤に関与することが明らかになった。今後は、CDCP1のがんの最初期である発生過程での役割を解析して、がん進展への関与を明らかにする。 コロナ禍における実験の制限により一部の実験が遅延しているものの、当初の目的は達成しつつある。研究の進行の遅れは、実験計画の見直しや効率化によって取り戻すことができると考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
前年度までにCDCP1とMetの生理的な協調的機能を解析するために、それぞれの単独のノックアウト(KO)マウスおよびダブルノックアウト(DKO)マウスを作出した(Met KOマウスは上皮組織特異的にノックダウン可能なマウスである)。いずれのマウスにおいても通常の生育条件で顕著な異常は認められなかった。そこで、本年度は腎臓に生理的ストレスを与えた条件での解析を実施した。その結果、CDCP1ノックアウトマウスでは、片腎切除後の腎臓の代償性肥大が有意に抑制されていた。さらに、この原因としてHGF-Metシグナルの異常による細胞増殖と細胞外環境の再編成の減弱が見いだされた。しかし、DKOマウスを用いた解析では、肥大化の相乗的な抑制は認められなかった。以上の結果から、CDCP1はHGF-Metシグナルの制御を担っており、腎臓の代償性肥大の促進に機能することが明らかになった。本研究成果を学術論文として報告した。 がん細胞の浸潤におけるCDCP1の関与を解析した。前年度までに、腎細胞がん細胞および乳がん細胞の悪性化におけるCDCP1の寄与を分子レベルで明らかにした。具体的には、CDCP1はMetとの相互作用を介してHGFシグナルを制御していた。そこで、本年度は実際の腫瘍環境を再現したヘテロな細胞集団内でのCDCP1高発現細胞と低発現細胞の振る舞いを解析した。その結果、CDCP1過剰発現細胞はHGF刺激に応答して、細胞外環境へ浸潤することを明らかにした。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度の解析から、CDCP1は腎臓の代償性肥大の促進に関わること、その過程にはHGF-Metシグナルによる細胞増殖と細胞外環境の再編成が重要であることが明らかになった。この研究成果を学術論文として報告したので、このサブテーマを終了する。 がん細胞の解析では、CDCP1はHGF-Met依存的ながん細胞の浸潤に重要であり、ヘテロな細胞集団内においては集団的浸潤に関与することが明らかになった。すなわち、CDCP1はがん進展の後期、悪性化の段階に重要であることが示唆された。今後は、CDCP1ががん進展の最初期であるがん発生でも重要であるのか、非がん細胞を利用して解析する。具体的には、非がん細胞にCDCP1を過剰発現させて、がん化が進行するか?その場合、重要なシグナル伝達は何か?を解析する。これにより、CDCP1のがん進展への寄与の全体像が明らかになると考えている。 コロナ禍における実験の制限により一部の実験が遅延しているものの、当初の目的は達成しつつある。研究の進行の遅れは、実験計画の見直しや効率化によって取り戻すことができると考えている。
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Causes of Carryover |
理由: コロナ禍における研究の制限により、当初の研究計画通りに実験を実施することができなかったため。また、出張の制限によって、旅費の支出がなくなったため。 今後の研究計画: 研究の進行の遅れは、実験計画の見直しや効率化によって取り戻すことができると考えている。このために、解析に必要な物品を追加で購入する。また、旅費の使用計画も見直し、物品費や解析費用にあてる。
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Research Products
(6 results)