2019 Fiscal Year Research-status Report
低酸素による可溶性IL-33受容体の発現低下が大腸がん悪性進展に及ぼす影響の解析
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19K07673
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Research Institution | Teikyo University |
Principal Investigator |
秋元 美穂 帝京大学, 医学部, 助教 (60437556)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 低酸素 / IL-33 / sST2 / HIF / 大腸がん |
Outline of Annual Research Achievements |
大腸がん細胞における可溶性IL-33受容体(sST2)の発現低下は、がん微小環境下でのIL-33/ST2L誘導性のヘルパーT細胞のTh2分化、M2マクロファージの浸潤および腫瘍血管形成を亢進し、腫瘍増殖・転移を促進する。本研究では、大腸がん細胞におけるsST2の発現が低酸素環境下で顕著に低下することを新たに見出し、そのメカニズムについて解明を進めている。低酸素培養でのsST2の発現低下はマウス大腸がんNM11細胞およびヒト大腸がんSW480細胞で確認された。また、低酸素下ではsST2の転写活性の低下が認められ、転写レベルで抑制されていることが分かった。低酸素誘導性のsST2発現低下は、低酸素誘導因子(HIF-1αおよびHIF-2α)のsiRNAノックダウンにより部分的に抑制されたことから、HIFの関与が示唆された。興味深いことに、sST2の発現低下に先行してIL-33の遺伝子発現が上昇し、IL-33タンパクが核に集積することが分かった。IL-33の遺伝子発現は低酸素下でHIFにより誘導されることや、核内IL-33が転写リプレッサーとして機能することが示唆されている。低酸素誘導性のsST2発現低下は、IL-33のsiRNAノックダウンにより抑制されたことから、IL-33の関与が示唆された。そこで、低酸素下で核内に集積したIL-33がsST2の転写抑制に関与する可能性について検討した。その結果、低酸素誘導性のsST2転写活性低下にはサイトカインとしての遊離のIL-33ではなく、核内のIL-33が必須であることが分かった。 したがって、本研究ではこれまでに大腸がん細胞で見られる低酸素誘導性のsST2発現低下のメカニズムについて検討し、低酸素下ではsST2の発現がHIFおよび IL-33依存的に抑制されることを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画通り低酸素誘導性のsST2発現低下のメカニズムについて解析を進めた。その結果、低酸素下ではHIFおよび IL-33依存的にsST2の発現が抑制されることを明らかにし、次年度以降の計画に繋がる知見が得られた。
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Strategy for Future Research Activity |
低酸素誘導性のsST2発現低下にはHIFおよび IL-33が関与することが考えられるので、そのメカニズムの詳細についてさらに解明を進める。核内IL-33はヒストン修飾を介したクロマチンリモデリングに関与する可能性が示唆されている。そこで、低酸素下でsST2遺伝子プロモーター領域近辺のヒストン修飾(メチル化およびアセチル化)に変化が見られる場合は、それがIL-33のノックダウンによって抑制されるかどうかを調べ、低酸素誘導性のsST2発現低下にIL-33を介したヒストン修飾が関与するか否かを明らかにする。また、ST2遺伝子のプロモーター領域にはGATA結合部位が数か所存在しており、sST2の発現がGATAによる制御を受けることが報告されている。さらに興味深いことに、タンパク質間の結合予測からGATAのうちTh2特異的な転写促進因子として働くGATA3がIL-33と結合することが示唆されている。そこで、プルダウンアッセイによる予備的な検討を行った結果、低酸素下でIL-33とGATA3が結合することが確認できた。今後は、低酸素下で核内に蓄積したIL-33がGATA3に作用してsST2発現を抑制する可能性についても検討する。 また、大腸がん培養細胞で見られた低酸素誘導性のsST2発現低下が生体内でも見られる現象かを明らかにするため、マウス大腸がんNM11腫瘍担癌マウスを用いて大腸がん腫瘍内低酸素領域でのsST2発現レベルを調べる。これまでの知見から、大腸がん腫瘍組織におけるsST2の減少はがん微小環境内でのIL-33/ST2Lシグナリングの亢進に繋がることが分かっているので、腫瘍の低酸素領域でIL-33/ST2L誘導性のTh2分化・TAMの浸潤・腫瘍血管形成が促進されるかどうかについても検討する。
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Causes of Carryover |
理由:当該年度から次年度にかけて進行中の研究計画があり、年度の移行期にも円滑に進められるように考慮して研究費の使用額を計画的に調整したため次年度使用額が生じた。 使用計画:当初の研究計画に基づき、現在進行中の研究に必須の試薬や器具、次年度参加予定の学会旅費、研究成果発表のための論文校閲などの費用に充てる。特にin vivoでの解析を行うにあたり、多種の抗体や蛍光・発光試薬が必要なので、これら消耗品の購入に使用する計画である。
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Research Products
(3 results)