2019 Fiscal Year Research-status Report
パーキンソン病の多中心性病巣形成と伝播:剖検組織の透明化と三次元観察による検証
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19K07841
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Research Institution | Niigata University |
Principal Investigator |
清水 宏 新潟大学, 脳研究所, 准教授 (40608767)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
柿田 明美 新潟大学, 脳研究所, 教授 (80281012)
吉田 眞理 愛知医科大学, 付置研究所, 教授 (60288545)
宮原 弘明 愛知医科大学, 付置研究所, 講師 (00457615)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | パーキンソン病 / 組織透明化技術 / 蛋白質伝播 / 剖検脳組織 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、パーキンソン病の初期病巣は全身の様々な部位で多中心性に形成され、順次周囲組織から遠隔へ伝播する進展仮説を立て、剖検例で検証することを目的とする。現在、神経変性疾患では原因蛋白質が凝集し初期病巣を形成したのち、神経軸索を順行性または逆行性に移動し、順次神経線維をのりかえて脳・脊髄の広範な領域に拡がる蛋白質伝播仮説が提唱されている。パーキンソン病ではブラークによる病変進展仮説が注目されている。それによればパーキンソン病の病変は初期には腸管自律神経系に形成され、迷走神経を逆行性に上行して延髄に至り、脳幹から大脳辺縁系・新皮質へ進展するか、あるいは嗅球・扁桃体を中心に形成されたのちに大脳へ拡がり、同時に脳幹を下降する2つのパターンに大別される。しかしながら現実の臨床ではパーキンソン病患者の臨床症状やその出現順序は多彩であり、例えば認知症と自律神経症状が同時に出現するなど、このいずれのパターンにも合致しないことも少なくない。一方、疾患蛋白質の伝播は、動物モデルでは詳細に検討されており、脳にアルファシヌクレインやタウを注入した場合、注入箇所を中心として、経シナプス的に脳の広範な領域へ蛋白質は伝播することが捉えられている。しかしながら伝播は現象としては詳細に検討されているが、ヒトにそのまま適応できるかは不明である。例えば大量のタンパク質を注入する手法、あるいは注入後の解剖部位非選択的な蛋白質伝播が、ヒト神経疾患で認められる系統変性を再現しているかについては疑問が残る。本研究ではヒトパーキンソン病では初期病巣は多中心的に形成され、その初期病巣周囲から遠隔へ順次伝播する可能性について、剖検組織の透明化により検証することを目的とする。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究ではパーキンソン病の初期病変を検討するため、その早期例、偶発例を対象とする。本年度は疾患対象を選択した。罹病期間3年以内のパーキンソン病、臨床的にパーキンソン病を指摘されなかった複数剖検例で検討した。これらの症例において嗅球・扁桃体・前頭葉・黒質・迷走神経背側核・交感神経節・食道・心臓交感神経を含むホルマリン固定パラフィン包埋切片を作製しアルファシヌクレイン免疫染色を施行したところ、複数の領域において同時にアルファシヌクレインの沈着が確認された。空間的に離れ、直接的な線維連絡のない複数系統でアルファシヌクレインの凝集が病初期に観察されることから、その初期病変は多中心性に形成されることが示唆された。これらのうちの数例および正常対照例において組織透明化による3Dイメージング技術CUBICを適応した。前頭葉のホルマリン固定脳を透明化しアルファシヌクレイン抗体の選定と染色条件の検討を開始した。心臓外膜および食道はパーキンソン病初期にアルファシヌクレインが凝集しやすく、また解剖学的に自律神経を同定しやすいためCUBICの良い適応と考えられる。どちらも脂肪組織を多く含有するため透明化のプロトコールを変更・修正し、観察に適した標本作製条件の検討を行った。またパーキンソン病は神経細胞のアルファシヌクレイン蓄積とLewy小体の形成を特徴とするが、アルファシヌクレインの伝播にはグリア細胞も関係することが示唆されている。パーキンソン病の剖検例複数例において、大脳および脳幹の複数部位を対象とし、通常のホルマリン固定パラフィン包埋切片を用いてアルファシヌクレインの免疫染色を行ったところ、オリゴデンドログリアあるいはアストロサイトにもアルファシヌクレインの沈着が認められた。
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Strategy for Future Research Activity |
パラフィン包埋切片によりアルファシヌクレイン凝集が確認された症例・部位について、ホルマリン固定組織をCUBICにより透明化し、三次元的なアルファシヌクレインの凝集・伝播を観察する。症例と部位の選択を終了したため、さらに抗体や染色条件の検定、光シート照明顕微鏡の観察条件の検討を進める。心臓では冠動脈前下行枝から心筋内へ交感神経が走行する。神経線維の走行が比較的明瞭であり、周囲を筋組織に包まれ自律神経系以外の神経組織の介在がないため観察に適していると考えられる。アルファシヌクレインの凝集がどのように始まるのか、すなわち交感神経線維の末端部から始まるのか否か(順行性か逆行性か)、連続的か不連続かなどを検討する。食道も並走する副交感神経(迷走神経)と食道を一塊として標本化でき、食道筋間・粘膜下神経叢も同定が容易であるため、心臓と同様に順行性・逆行性などの観察が比較的容易であると考えられ、標本化と観察を進める。パーキンソン病のアルファシヌクレイン凝集・伝播におけるグリアの役割についても検討を進める。アストロサイトに注目した場合、症例と部位に依存してアルファシヌクレイン凝集が顕著であった。アストロサイトの関与の強いパーキンソン病解剖例の特徴、グリアに凝集するアルファシヌクレインの特徴(リン酸化・非リン酸化など)、神経細胞とグリアの凝集順序や細胞間の近接性などを検討する。研究計画書に則り、PDの多中心的な病巣形成と三次元的な伝播の様式、伝播おける神経細胞・グリアの関与などを順次検討する。
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[Journal Article] Two distinct prions in fatal familial insomnia and its sporadic form.2019
Author(s)
Atsuko Takeuchi, Shirou Mohri, Hideaki Kai, Akira Tamaoka, Atsushi Kobayashi, Hidehiro Mizusawa, Yasushi Iwasaki, Mari Yoshida, Hiroshi Shimizu, Shigeo Murayama, Shigetoshi Kuroda, Masanori Morita, Piero Parchi, Tetsuyuki Kitamoto
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Journal Title
Brain Communications
Volume: 1
Pages: fcz045
DOI
Peer Reviewed / Open Access
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