2020 Fiscal Year Research-status Report
The development of Intravenous lipid emulsion therapy for overdoses of lipophilic drugs
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19K09446
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Research Institution | Setsunan University |
Principal Investigator |
辻 琢己 摂南大学, 薬学部, 准教授 (90454652)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 急性薬物中毒 / Lipid therapy / クロミプラミン |
Outline of Annual Research Achievements |
申請者は,脂溶性薬剤の過量服用に対する治療方法(解毒方法)として,脂肪乳剤の静脈内投与(lipid therapy)を臨床に還元するための基礎的研究を行っている.即ち,本申請課題では,脂溶性薬剤として三環系抗うつ薬であるクロミプラミン(CMI)を用いて,lipid therapyの最適な投与方法および安全性等に関する基礎的データを集積する.令和2年度は,CMIを経口投与したWister系ラットに脂肪乳剤としてイントラリポス(Lip)を持続静脈内投与し,CMIの過量投与によって生じる不整脈(QT延長等)の発症抑制効果について調べた.なお,心電図は,CMI投与後25分後から開始し,100分後まで5分毎にモニタリングした.その結果,500 mg/kgのCMIを投与した個体では,観察時間を通してQTcの延長がみられ(25分;209±7 msec→100分;256±4 msec),未処置の個体(25分;194±4 msec→100分;209±8 msec)と比較して有意に延長した.一方,500 mg/kgのCMIとLipを投与した個体のQTcは,観察時間を通して延長はみられず(25分;195±7 msec→100分;209±12 msec),未処置の個体と同程度に維持されていた.これらのことから,Lipの静脈内投与によって,CMIの過量投与によって生じるQT延長等の不整脈の発症を抑制できることが示唆された.しかし,本研究の結果は,心電図異常が生じる前にLipの投与を開始している.今後,実臨床への応用を考慮し,生じたQTcの延長がLipの投与により正常レベルまで改善することを明らかとする予定である.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初,令和2年度の計画は,1)心電図異常を生じるクロミプラミン(CMI)の投与量を明らかにし,かつ,イントラリポス(Lip)の投与により心電図異常を抑制できることを確かめる.2)Lipと利尿薬の併用療法の有用性について,CMIおよび代謝物であるデスメチルクロミプラミン(DMCMI)の組織分泌や尿中排泄等について調べる計画であった.しかし,COVID-19の拡大により,キャンパスが閉鎖され,研究活動が一定期間ストップした.さらに,感染拡大を防止するために,従来の研究体制に戻すことが困難であった.このような環境の中で,上記1)について先行して研究を進めることとした.小規模な研究結果ではあるが,500 mg/kgのCMIの投与により心拍数が低下しQTcが延長する可能性が示唆された.また,このQTcの延長はLipの予防的静脈内投与により抑制できる可能性が示された.令和3年度は,さらに研究成果を集積し,CMIの投与量によって生じる不整脈の違いやLipの治療的投与の有用性等を詳細に調べる必要があると考えている.加えて,利尿薬の併用療法の有用性についても詳細に検討を加える必要があると考えている.
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Strategy for Future Research Activity |
令和3年度は,本研究課題申請時の研究計画に記載した通り,クロミプラミン(CMI)による有害事象(血圧低下,不整脈等)を効果的に抑制・治療できるイントラリポス(Lip)の投与量等を明らかとする予定である.一方で,本研究の計画当初から予測していたが,500 mg/kgのCMIを投与した場合,死亡個体も生じている.従って,CMIの投与量調整や分割投与も視野に入れ,計画を遂行する予定である.また,これまでに申請者らが集積したLipと利尿薬の併用療法に関する結果からは,利尿薬との併用療法ではCMIの尿中排泄は促進されないが,利尿薬の単独投与により,代謝物であるデスメチルクロミプラミン(DMCMI)の尿中排泄が促進される傾向が示されている.このDMCMIにも薬理作用が存在するため,この利尿薬の併用療法については,DMCMIの動態についても併せて詳細に調べる必要があると考えている.この利尿薬の併用療法の結果から,実臨床への応用を考えた場合,急性期はLipを用いて組織への移行を抑制し,その後,利尿薬によって排泄を促進するなど,Lipおよび利尿薬の投与タイミングを含めた投与レジメンを構築したいと考えている. 以上の研究によって,lipid therapyの有用性を明らかにし,急性薬物中毒に対する安全かつ効果的な治療方法を提案したいと考えている.
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Causes of Carryover |
現在までの進捗状況でも記載した通り,COVID-19の拡大により研究活動が制限され,動物実験が十分に実施できなかったことが大きな要因である.令和3年度は,令和2年度に予定していた利尿薬との併用療法の有用性に関する研究およびイントラリポス(Lip)による不整脈の発症抑制と治療に関する動物実験を実施し,さらなるデータを集積する予定である.そのため,令和3年度分の実験動物およびCMI等の医薬品費に充当する予定である.
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Remarks |
摂南大学薬学部 病態医科学研究室ホームページ http://www.setsunan.ac.jp/~p-rinsho/gakkai2.html
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