2020 Fiscal Year Research-status Report
脂肪酸伸長酵素ELOVLによる脂質の質的変容を介した腎癌の進展メカニズムの解明
Project/Area Number |
19K09664
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
神鳥 周也 筑波大学, 医学医療系, 講師 (50707825)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
池田 篤史 筑波大学, 附属病院, 病院講師 (50789146)
松坂 賢 筑波大学, 医学医療系, 教授 (70400679)
河合 弘二 筑波大学, 人間総合科学研究科, 講師 (90272195)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 淡明型腎細胞癌 / 脂肪酸伸長酵素 / ELOVL2 / ELOVL5 |
Outline of Annual Research Achievements |
腎癌の約80%を占める淡明型腎細胞癌(ccRCC)は脂質合成亢進に伴う細胞内脂質の増加が特徴である。がんにおいてde novoの脂質合成(脂質の「量」)が亢進し、がんの生存に寄与することが証明されているが、脂質の「質」の役割については未だ不明な点が多い。我々はccRCCの進展に脂質の質的変容が重要な役割を果たすという仮説のもと、脂肪酸伸長酵素ELOVLsに着目し、ccRCCにおいてELOVL2及びELOVL5の発現が亢進し、これらの発現抑制によりがんの増殖、浸潤が抑制されることを明らかにした。本研究ではccRCCにおいて、これらの脂肪酸伸長酵素が脂質の三大機能である生体膜成分、エネルギー源、シグナル伝達分子としての機能に及ぼす影響とがんの増殖や浸潤を促進する機序を明らかにすることを目的とする。 これまでに、我々はELOVL2及びELOVL5ノックアウト腎癌細胞株を樹立し、アポトーシスが亢進することで細胞増殖が抑制されることを明らかにした。ELOVL2及びELOVL5はともに必須脂肪酸である長鎖脂肪酸(n-3系/n-6系)の伸長反応を担っており、これらの脂肪酸組成がccRCCの進展に重要な役割を果たす可能性が示唆される。しかしながら、これまでの検討は腎癌細胞内の全脂質における脂肪酸を測定しているが、脂質は生体内でセラミド、リン脂質、糖脂質など多様な状態で存在し、多彩な機能を有していることが知られている。そこで今後は、主要な細胞膜の構成成分であり、生体内におけるシグナル伝達に関与するリン脂質に着目して研究を進めていく。ELOVL2及びELOVL5によるリン脂質における脂肪酸組成の変化を明らかにし、ccRCCの増殖や浸潤との関与を検討していく予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
我々は、CRISPR/Cas9システムによりELOVL2ノックアウト腎癌細胞株(ACHN、786-O)、ELOVL5ノックアウト腎癌細胞株(ACHN、786-O)を樹立し、腎癌においてELOVL2/ELOVL5のがんの進展における役割を検討してきた。これまでの研究結果から、ELOVL2ノックアウト腎癌細胞株(ACHN)ではアポトーシスが亢進することで細胞増殖が抑制されることが示された。一方で、ELOVL2により長鎖脂肪酸が合成されるが、LC-MS(LTQ Orbitrap XL)では腎癌細胞株(ACHN、786-O)における長鎖脂肪酸が十分に測定できなかった。そこで、島津製作所の協力のもとGC-MS(GCMS-TQ8040)によりアラキドン酸、ドコサペンタエン酸、エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸の測定を行い、ELOVL2ノックアウトにより腎癌細胞内におけるこれらの長鎖脂肪酸の含有量が減少することが明らかとなった。細胞内における脂肪滴形成は淡明型腎細胞癌の特徴の1つであるが、これまでにELOVL2が線維芽細胞や肝における脂肪滴形成を促進することが証明されている(J Lipid Res. 2014, FFBS Lett. 2007)。そこで、Lipi-Green(Dojindo)による脂肪染色を行った結果、ELOVL2ノックアウト腎癌細胞株(ACHN)における脂肪滴が減少していることが明らかとなった。以上の結果から、ELOVL2は長鎖脂肪酸の伸長反応により細胞内の脂肪滴形成を促進し、アポトーシスを回避することで腎癌の進展に寄与する可能性が示唆された。現在、この成果をまとめて論文投稿準備中であり、2021年度中に論文投稿を行う予定である。また、ELOVL5ノックアウト腎癌細胞株においてもアポトーシスが亢進することで細胞増殖が抑制され、研究を進めているところである。
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Strategy for Future Research Activity |
樹立したELOVL2ノックアウト腎癌細胞株(ACHN、786-O)、ELOVL5ノックアウト腎癌細胞株(ACHN、786-O)を用い、ccRCCにおけるELOVL2及びELOVL5を介したアポトーシス抑制メカニズムの解明を試みる。これまでの研究成果から、ELOVL2ノックアウト腎癌細胞株(ACHN)ではBcl-2ファミリーを介した内因性経路によるアポトーシスが誘導され、CHOPの発現が亢進していることから小胞体ストレス(ER)ストレスが関与している可能性が示唆された。そこで、ELOVL2及びELOVL5ノックアウト腎癌細胞株におけるERストレスの評価のために、ERトラッカーによる染色やERストレスマーカーであるIRE1α、ATF6、PERKのウエスタンブロットを行う。 また、これまでの検討では腎癌細胞内の全脂質における脂肪酸を測定しており、今後は脂質の生理機能を評価するうえで、ELOVL2及びELOVL5による各脂質における脂肪酸組成の変化を検討する必要がある。そこで、主要な細胞膜の構成成分であり、生体内におけるシグナル伝達に関与するリン脂質に着目して研究を進める。島津製作所の協力のもとLC-MS/MSもしくはGC-MS/MSによる解析を行い、ELOVL2及びELOVL5によるリン脂質における脂肪酸組成の変化を検証し、淡明型腎細胞癌におけるERホメオスタシス維持との関連を明らかにする。
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Causes of Carryover |
2020年度の新型コロナ感染症拡大も関係し、当初予定した消耗品等の納品が遅れたため。 納品され次第、早急に実験をに実施する予定である。
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