2020 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
19K09681
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Research Institution | Hyogo Medical University |
Principal Investigator |
後藤 章暢 兵庫医科大学, 医学部, 教授 (70283885)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
松永 渉 兵庫医科大学, 医学部, 助教 (20415300)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | アデノウイルスベクター / Crispr-Cas9 / 血管新生阻害療法 / 膀胱がん / キメラ型ベクター / ミドカイン |
Outline of Annual Research Achievements |
膀胱がんの全症例中の7割を占める筋層非浸潤性の膀胱がんは、難治性で再発を繰り返して悪性度を高める性質がある。現行の治療法は患者のQOL低下が著しく、特に最も効果的なBCG膀胱内注入は、患者の半数が治療を中止するほどの副作用がある。そのため、効果的で副作用の低い膀胱がん治療法開発は大きな意義がある。当研究室では、難治性膀胱がん治療を目的として、がん細胞に特異的に感染増殖するアデノウイルスベクターAd5F35/MKp-E1を開発し、腫瘍溶解性ウイルスとして膀胱がん細胞に対する強い抗腫瘍効果を確認したが、ウイルスの毒性や免疫反応による効果減退などの懸念があった。 そこでAd5F35ベクターに血管内皮増殖因子を標的とするCRISPR-Cas9を組み込み、治療能力を向上させることを計画した。現行の血管新生阻害療法は腫瘍に対する特異性を欠いているため、しばしば正常な血管新生を阻害して重篤な副作用を起こす。しかし、Ad5F35のがん細胞への特異性を利用すれば、腫瘍に特異的で安全な血管新生阻害療法を実現できるうえに、Ad5F35にさらなる治療能力を加えられる。 Cas9遺伝子を組み込んだAd5F35ベクターを作製し、in vitroでの実験の結果、がん細胞に特異的なCas9遺伝子発現を確認することができた。当初の計画では、同じAd5F35ベクター中にCas9エンドヌクレアーゼとガイドRNA配列を組み込むとしていたが、Ad5F35にはCas9エンドヌクレアーゼ遺伝子のみを搭載し、ガイドRNAは別のベクターを用いることにした。これによりガイドRNAの変更が簡単になり、応用範囲も容易に広げられるようになると考えている。また、当初計画ではAd5F35の増殖能力はそのままにする予定であったが、実験実施のための事務手続きの煩雑さと腫瘍溶解効果による観察の困難さにより、増殖能力のないベクターを使用した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度は、標的細胞へのhCas9遺伝子導入とVEGF-A発現抑制の確認と動物実験への着手を予定していたが、進捗は遅れている。 アデノウイルスベクターの構築作業は完了した。完成したベクターAd5F35-Mkp-hCas9は、がん細胞に多い成長因子のミッドカインのプロモーター領域の下流に、ヒトコドンに最適化した化膿レンサ球菌由来のCas9 (hCas9)、および発現マーカーのEGFPを配置している。培養細胞にこのベクターを感染させた後、hCas9のDNAの有無、マーカーの緑色蛍光の観察、ウエスタンブロッティング法によるhCas9タンパクの検出を行ったところ、がん細胞の多くでhCas9のDNA、緑色蛍光、hCas9タンパク発現が確認できた。一方、非腫瘍細胞においては、PCRでhCas9のDNAが検出されたものの、緑色蛍光とhCas9タンパクの発現は確認できず、がん細胞に特異的なhCas9遺伝子発現が確認された。この結果については、現時点で論文作成中である。 しかし、膀胱がんモデルマウス作製に最も使いやすく、また過去の研究ではAd5F35ベクターの腫瘍溶解効果が最も高かったKK47細胞(ヒト膀胱がん由来)では、Ad5F35-Mkp-hCas9による遺伝子発現が確認できなかった。このため、動物実験のことを考慮してKK47細胞への感染実験を繰り返し、最終的に、KK47細胞の動物実験用として、hCas9遺伝子の発現制御をミッドカインプロモーターではなく一般的なCMVプロモーターに変更したAd5F35ベクターを作製するための時間を要し、進捗が遅れることとなった。 血管新生阻害因子であるVEGF-Aを標的としたガイドRNA配列を組み込んだアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを外注で完成しているが、以上の理由により、hCas9による実際のVEGF-A遺伝子感染実験までは行えなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
hCas9搭載のアデノウイルスベクターは完成し、効果は確認できたものの、ガイドRNA搭載ベクターの感染試験、およびVEGF-A遺伝子抑制の確認については着手できていないため、早急にこの実験を進める。また動物実験についても未着手であるが、必要なベクターはそろっているため、早急にin vivoで腫瘍における血管新生阻害効果を確認する実験を行う。
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Causes of Carryover |
本年度は研究計画の進捗がやや遅れていることに加え、新型コロナウイルス流行に対する国、地方および大学での規制のため、学会への参加を見合わせざるを得ないこととなり、旅費として計上していた金額の多くを使用することが出来なかった。 研究計画にいささかの進展もあったため、2021年度は積極的に学会等に参加する予定であるが、今後の新型コロナウイルスの流行状況いかんにも関係しているため、明確な計画は立てることはできない。
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