2020 Fiscal Year Research-status Report
網羅的発現解析が明らかにした眼特異的転写産物は角膜再生の新規キープレーヤーか?
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19K09993
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Research Institution | Nagasaki University |
Principal Investigator |
木下 晃 長崎大学, 原爆後障害医療研究所, 講師 (60372778)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
小路 武彦 長崎大学, 医歯薬学総合研究科(医学系), 教授 (30170179)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | ITPR1 / Gillespie症候群 / 無虹彩症 / 神経堤細胞 / 角膜 / CRISPR/Cas9法 |
Outline of Annual Research Achievements |
希少な遺伝性疾患Gillespie syndrome(GLSP)は運動失調と無虹彩症を特徴とする稀な遺伝性疾患である.報告者は次世代型シーケンサーを用いた変異解析の結果,本邦のGLSP患者5名に,inositol 1,4,5-triphosphate receptor type 1(ITPR1)遺伝子の3’-末端側に変異ホットスポットを同定した.ITPR1はカルシウムチャンネルとして働く巨大タンパク質(2743アミノ酸残基)であり,小脳性運動失調の責任遺伝子として知られているが,何故GLSP患者だけが無虹彩症を併発するのかは不明である. これまでの研究で明らかになったことは以下である.(1)変異ホットスポットはタンパク質のC-端側にあたるため,未知の転写開始点があると仮定し,マウス眼RNAを材料にRNA-seqを行った.この結果,報告者は新規転写開始点を同定し,その転写産物は218アミノ酸残基からなることを明らかにした(以下218アイソフォームと呼ぶ).(2)これまでに作製されたたItpr1ノックアウト(KO)マウスと異なり,CRISPR/Cas9法で作製したKOマウスは運動失調に加えて神経堤細胞に由来する前眼部組織(角膜内皮など)が消失した無虹彩症の表現系を示した. これらの結果から眼特異的な218アイソフォームが神経堤細胞から前眼部組織の分化に関わるキープレーヤーであると考えた.眼特異的アイソフォームの発現調節機構,神経堤細胞由来の前眼部組織(特に角膜)の形成過程における経時的な発現の変化,218アイソフォームに結合するタンパク質の同定に基づく未知の機能の予測・解明という3つの研究を柱に,218アイソフォームによる頭部神経堤細胞から角膜形成過程の分子メカニズムを明らかにし,角膜再生医療の基礎研究とする.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
Itpr1の3-末端にV5タグ配列をノックインした遺伝子改変マウス(V5マウス)を作製し,218アイソフォームが眼特異的に発現することをウェスタンブロットで明らかにした.この眼特異的発現を制御する転写ネットワークを解明するためにレポーターアッセイを行い,眼の発生後期に働く転写因子c-MAFが転写を促進し,逆に神経堤細胞マーカーである転写因子SOX9が転写を抑制することを明らかにした.クロマチン免疫沈降やDNAオリゴ結合アッセイでc-MAFとSOX9は転写開始点近傍の結合モチーフ配列に直接結合することを明らかにした. 無虹彩症の発症機序として,(1)神経堤細胞が運動異常で前眼部まで移動できない, (2)不適切なアポトーシスをおこす(3)前眼部組織の分化異常が考えられる.CRISPR/Cas9法で作製したtpr1 KO マウスを,神経堤細胞マーカー(p75NTR)とアポトーシスマーカー(活性型Caspase-3)を用いた免疫染色を行なったが異常は確認できなかったため, Itpr1の喪失により分化異常が起きていると結論した.マウスでは前眼部形成は生後3週間で完成する.前述のKOマウスは離乳期(約3週間)まで生存可能であり,前眼部形成の過程を観察できる.生後21日のKOマウスでは神経堤細胞に由来する角膜内皮・ストロマおよび虹彩ストロマが消失していた. なぜ分化異常が起きるのかを解明するために,V5マウスの眼から抽出したタンパク質をV5抗体で免疫沈降し,質量分析を行った結果,アクチン・ミオシン・アクチニンが結合していることが明らかになった.アクチン・ミオシンファイバーがどの様な機序で神経堤細胞の分化を制御するかは現在解析中である. これまでの研究成果をDevelopment誌に投稿し,revise中である.
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究からITPR1,特にC-端側の218アミノ酸残基からなる眼特異的アイソフォームが神経堤細胞由来前眼部組織の分化に必要であることが分かった.次のステップとして218アイソフォームによる分化機構の解明である.アクチンファイバーが生み出す張力の測定は学内の機器では不可能であるため,他の手法を考えている. 野生型と変異型の218アイソフォームそれぞれドキシサイクリン依存的に強制発現を行うと,時間経過と共に野生型と変異型では形態や性質が変わってしまう(アクチンファイバーの方向性,培養ディッシュへの接着力が野生型と変異型で異なる).おそらくそれぞれのアイソフォームの発現により「遺伝子の発現パターン」が変わっていると予測している.今後は発現からの時間経過に従ってRNAを抽出し,RNA-seqを行う予定である. また質量分析を再度行い,鍵となるアクチン・ミオシン以外のタンパク質の探索を行う.
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Causes of Carryover |
本年度は眼から抽出したRNAを経時的に抽出しRNA-seqを行う予定であったが,論文作成の過程で必要なデータ収集を優先したために行えなかった.これらのデータ収集には手持ちの試薬や消耗品でほぼ対応可能であった.また執行した予算は英文校正を含む論文投稿に関するものである. コロナ禍で学会や研究打ち合わせもネット経由で行ったため旅費等の経費も不要であった. 令和3年度は未使用分と合わせて予算を執行する.次世代型シーケンサーを用いたRNA-seqとChIP-seqを行うための消耗品の購入に使用する予定である.
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