2021 Fiscal Year Research-status Report
網羅的発現解析が明らかにした眼特異的転写産物は角膜再生の新規キープレーヤーか?
Project/Area Number |
19K09993
|
Research Institution | Nagasaki University |
Principal Investigator |
木下 晃 長崎大学, 原爆後障害医療研究所, 准教授 (60372778)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
小路 武彦 長崎大学, 医歯薬学総合研究科(医学系), 客員研究員 (30170179)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
|
Keywords | Gillespie syndrome / ITPR1 / 神経堤細胞 / 前眼部組織 / 無虹彩 |
Outline of Annual Research Achievements |
小脳失調と無虹彩を特徴とする希少遺伝性疾患Gillespie syndrome (GLSP)患者に、inositol 1,4,5-triphosphate receptor type I (ITPR1)のC-末端側にde novo変異のホットスポットを同定した。ITPR1は脊髄小脳変性症の責任遺伝子として知られているが、「なぜGLSP患者のみで無虹彩が発症するのか?」を解明するために本研究を行い、以下の結果を得た。 ①免疫染色の結果からマウスItpr1は神経堤細胞 (NCC) に由来する虹彩ストロマ、角膜の内皮およびストロマに局在した。②RNA-seqにより変異ホットスポットの上流(マウスのエキソン57)に眼特異的転写開始点(TSS)を同定した。このTSSからの転写は眼発生に必須な転写因子c-MAFにより活性化され、NCC特異的転写因子SOX9により強く阻害された。新規転写産物は218アミノ酸から成るタンパク質(218-aa)をコードする。③Itpr1のエキソン62の7塩基を欠失した変異ホモマウス(Itpr1Δ7bp/Δ7bp)は、GLSP患者の特徴である運動失調と無虹彩を再現した。このマウスではNCCに由来する前眼部組織の形成不全が起きていた。④218-aaはアクチン・ミオシン・アクチニンなどフォーカルアドヒージョン(FA)を形成するタンパク質と結合した。⑤野生型または変異型の218-aaを発現するマウス線維芽細胞株では、野生型は太く一定の方向性を持つアクチン線維とFAが観察されるのに対して、変異型では細く方向性がバラバラであった。⑥野生型はmechanosensitive transcriptional regulatorであるYes-associated protein (YAP) の核内移行を促進するが、変異型では促進されなかった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「研究実績の概要」欄で記載しているように、本研究では①眼特異的ITPR1の新規転写開始点とその発現制御機構の解明、②新規転写産物がコードするタンパク質 (218-aa)の同定、③新たに作製したノックアウトマウスではGLSP患者の表現系を再現し、神経堤細胞に由来する前眼部組織の形成不全が原因の無虹彩を呈した。④218-aaはアクチン線維とフォーカルアドヒージョンの方向と強度を制御し、YAPの核内移行を促進する。この機構の破綻がGLSP患者における無虹彩の発症機序と考えられる。本研究成果は、発生学分野におけるトップジャーナルであるDevelopment誌に掲載された 。 マウス胎仔から成獣までの発生ステージ毎の前眼部組織における遺伝子発現の変化を調べるためにRNA-seqを試みた。しかしマウス前眼部組織は眼全体のごく一部であり、十分量のRNAの抽出とライブラリー作製は難しい。現在、凍結切片からマイクロダイセクション 法により前眼部組織を分離し、極微量なmRNAから作製可能なライブラリー作製キットを用いて実験を継続している。
|
Strategy for Future Research Activity |
RNA-seqによるマウス胎仔から成獣までの発生ステージ毎の前眼部組織における経時的遺伝子発現変化の測定プロジェクトが現在難航している。現在流行している凍結切片を用いた空間トランスクリプトーム解析を検討したが、予算的に無理である。そこで凍結切片から前眼部組織のみを切り出すマイクロダイセクションと微量サンプルからのRNA-seqライブラリーの作製技術を組み合わせて研究・解析を行う。
|
Causes of Carryover |
RNA-seqによるマウス眼発生における発現変化の研究において、微小組織からのシーケンシングライブラリーの作製がうまくいっていないため。次年度はマウスの発生ステージ毎に眼の凍結切片を作成し、前眼部組織のみをマイクロダイセクション法で採取する。この微小組織からRNAを抽出しライブラリーの作製と次世代型シーケンサーによる発現解析を行う。 次年度は、シーケンスライブラリーの作製と次世代シーケンサーによるデータ取得(外注)に必要な経費として使用する予定である。
|
Research Products
(5 results)