2020 Fiscal Year Research-status Report
立体間葉系幹細胞集塊と軟骨誘導を利用した他家移植歯周組織再生療法開発
Project/Area Number |
19K10129
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
加治屋 幹人 広島大学, 医系科学研究科(歯), 助教 (00633041)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 間葉系幹細胞集塊 / C-MSCs / 軟骨誘導 / 軟骨内骨化 / 免疫原性 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究代表者はこれまでに、間葉系幹細胞(MSCs)と細胞自身が産生する細胞外基質(ECM)から構築される直径1mmほどの3次元的細胞集塊Clumps of MSCs/ECM complexes(C-MSCs)を樹立していた。C-MSCsは人工材料を用いることなく、実質欠損部に移植可能で、組織再生効果を発揮する。特に、移植前の培養条件によって細胞性質を調節できるという特徴がある。 C-MSCsを臨床応用するためには、患者負担のないドナー細胞から作製でき、高い骨再生効果を発揮できることが理想的である。ここで重要なことに、軟骨は免疫原性が低い組織であり、かつ、軟骨内骨化によって骨形成を生じることが知られている。そこで本研究では、C-MSCsに軟骨誘導を施すことで免疫原性が低く、骨再生能が高い移植体を作製することを目的とした。 2019年度には、C-MSCsに軟骨誘導を施すことで高い骨再生能を発揮する軟骨基質中心のC-MSCsを作製することに成功していた。そこで、臨床応用のために血清不含・異種動物タンパク不含のゼノフリー(XF)条件での軟骨様C-MSCsの作製を目指した。 その結果、2020年度には、全行程をXF条件として軟骨様C-MSCsを作製することに成功し、最適な培養期間等のプロトコール確定も行った。さらに、この軟骨様C-MSCsの免疫不全マウス頭蓋冠欠損移植実験によって、移植された細胞と宿主の細胞が相互作用しながら軟骨内骨化の様式によって骨再生を促進することを見出した。本成果は現在論文投稿中である。 これと並行して、さらにC-MSCsの免疫調節能について調べたところ、浮遊状態によって生じるp38/JNK-c-fosシグナルがその免疫制御能を向上させている可能性を見出し、論文発表に至った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、C-MSCsに軟骨誘導を施すことで、軟骨内骨化による効率的な骨再生効果を発揮し、低い免疫原性によって移植拒絶を逃れることができる軟骨様C-MSCsの樹立を目指すものである。 研究初年度の成果を発展し、完全XF条件でサフラニン染色で赤に濃染される軟骨基質からなる軟骨様C-MSCsの樹立ができたため、研究は順調に進展しているといえる。また、免疫不全動物のSCIDマウス頭蓋冠欠損モデルに対する移植実験を行い、高い骨再生効果を確認できた。さらに、ヒト・マウスを識別する特異抗体を用いた免疫染色によって、移植された細胞と宿主の細胞の振る舞いを調べ、当初期待したような軟骨内骨化が観察できた。 また、免疫応答の観点では、C-MSCsの免疫制御能について焦点をあて、その基本性質を調べた。その結果、浮遊立体培養というC-MSCs特有の培養条件が、通常の2次元培養状態では生じないシグナル伝達経路の活性化を生じ、これがMSCsの免疫制御因子産生に関与することを見出した。このことは、C-MSCs他家移植骨再生療法の樹立に向けて良好な結果であったといえる。 さらに、ヒト免疫系細胞の他家ヒトC-MSCsに対する移植拒絶応答を確認するためのin vitro実験系の構築も行っている。すでにヒト末梢血から分離したT細胞との共培養系を確立し、有望な結果を得ている。また、当初仮説を立てた免疫原性の低さのみならず、C-MSCsの免疫制御能によって免疫系を積極的に抑制できる可能性も見出しているため、本研究は順調に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
ヒト細胞の移植拒絶のin vivo実験は困難であるため、当初、野生型マウス(c57BL6)等への異種移植実験を計画した。しかし、通常状態のヒトC-MSCsでもマウス免疫細胞による移植拒絶を抑制するようなケースが散見されたため、今後の研究では、実験動物を大型化させる予定である(ラット等)。 また、大動物での実験としてビーグル犬他家移植の検討も開始している。しかし、ヒト細胞で樹立したプロトコールをビーグル犬骨髄由来MSCsに用いたところ、期待したほどの軟骨基質形成が生じなかった。この点について、最終年度の研究でプロトコールをビーグル犬用に至適化し、研究を完遂する予定である。 今後は、上記の2点を中心にデータを集め、軟骨様C-MSCsによる他家移植骨再生療法の有効性を示す予定である。 一方で、本研究遂行中に、軟骨様C-MSCsにさらに骨分化誘導を施すことで、細胞集塊の外周に石灰化した骨様組織を形成させることに成功している。これは、骨の発生期に観察される骨化中心の外層である骨殻に類似した組織であった。つまり、軟骨様C-MSCsに骨分化誘導をかけて得られた細胞塊は、より効率的な軟骨内骨化を生じ、これまでになく効果的な骨再生を達成できる可能性もある。したがって、この骨殻を付着させた軟骨様C-MSCsについての移植実験も併行して進め、より新規的な知見の獲得も目指すこととする。
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Causes of Carryover |
研究計画時に、XF条件での軟骨誘導のために培地費用が高額にかかると試算していた。しかし、研究が予想以上に順調に進行し、比較的効率的に培地条件およびプロトコールを確立できたため、培養実験にかかるコストが低く抑えられた。 また、他の財団からの研究助成が得られ(90万円/年)、その研究プロジェクトと補完的に連動しながら研究を進められたことも、当初想定したよりも効率的な研究費使用となったといえる。 ただし、前述した通り、ビーグル犬を用いた大動物実験がやや難航している。また、ラットを用いた実験も計画している。これらは、マウス研究よりも動物飼育費が高額となる。したがって、今回生じた次年度使用額を充てることで、研究最終年度の動物実験を確実に進めることが可能になる。
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Research Products
(2 results)