2021 Fiscal Year Research-status Report
歯周病原細菌による好中球細胞外トラップ誘導を基軸とした歯肉上皮バリア破綻の解明
Project/Area Number |
19K10143
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
多田 浩之 東北大学, 歯学研究科, 講師 (70431632)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
西岡 貴志 東北大学, 歯学研究科, 講師 (50641875)
松下 健二 国立研究開発法人国立長寿医療研究センター, 口腔疾患研究部, 部長 (90253898)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 慢性歯周炎 / 歯周病原細菌 / Fusobacterium nucleatum / 好中球 / マスト細胞 / 細胞外トラップ |
Outline of Annual Research Achievements |
慢性歯周炎において、歯周病原細菌により誘導される慢性炎症は歯周組織を破壊する主体となる。よって、歯周病原細菌の感染に対する宿主細胞の慢性炎症反応の機序を解明することは、歯周病の予防・治療法の開発基盤として重要な意義を示す。本研究は、歯周病原細菌の感染による好中球から産生される好中球細胞外トラップ(neutrophil extracellular traps; NETs)の誘導メカニズムならびにNETsによる口腔粘膜バリアが破綻する機序を解明することを目的とする。 昨年度の研究実績から、ヒト好中球は歯周病原細菌Fusobacterium nucleatum感染によりNETsを産生することを見出した。細胞外トラップは好中球のみならず、多様な免疫細胞から産生される。今年度は、マスト細胞に着目し、F. nucleatum感染によるヒトマスト細胞からの細胞外トラップの産生について解析した。その結果、F. nucleatum感染によりマスト細胞は細胞外トラップDNAを放出することが観察され、このDNA構造物はシトルリン化されたヒストンH3を含むことから、マスト細胞外トラップ(mast cell extracellular traps; MCETs)であることを明らかにした。次にF. nucleatum感染によりマスト細胞から放出されたMCETsに発現する分子群について、サイトカインアレイ法で解析した結果、F. nucleatum感染によりマスト細胞から放出されたMCETsには炎症の惹起を担うマクロファージ遊走阻止因子(macrophage migration inhibitory factor, MIF)が高レベルで発現することを見出した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
令和3年度の研究計画に基づきマストMCETs産生に関する実験を実施した結果、次の研究成果が得られた。 ヒトマスト細胞またはマウスBMMCsにF. nucleatumを感染し、同細胞のMCETs産生について細胞外DNAを染色して観察したところ、F. nucleatum感染によりマスト細胞は細胞外にDNAを放出することが確認された。F. nucleatum感染によりHMC-1細胞から放出された細胞外DNAにはシトルリン化ヒストンH3発現が検出されたことから、F. nucleatum感染によりマスト細胞が放出した細胞外DNAはMCETsであることが証明された。MCETsの網羅的なサイトカイン発現の解析から、F. nucleatum感染によりマスト細胞が放出するMCETsには、炎症反応に関わるIL-1 receptor antagonist (IL-1ra)やplasminogen activator inhibitor-1 (PAI-1)に加え、炎症の惹起を担うマクロファージ遊走阻止因子(macrophage migration inhibitory factor, MIF)が高レベルで発現していた。好中球とマスト細胞において、F. nucleatum感染により共にMIFレベルが高い細胞外トラップ産生が誘導された結果は、歯周炎におけるMIFの重要性を示唆しており、今後はMIFによる炎症誘導の可能性ならびにメカニズムの解明を進める予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
MIFは、マクロファージの炎症部位からの無秩序な遊走を阻止し、炎症局所においてマクロファージが効率的に宿主防御に働く作用を示すサイトカインである。加えて、MIFはグラム陰性菌が持つリポ多糖LPSによるエンドトキシンショックにおける様々な炎症性サイトカイン産生の誘導を担うことが明らかにされ、MIFは炎症の惹起に深く関与することが示されている。そこで、F. nucleatum由来LPSがマスト細胞のMCETs産生ならびにMCETsのMIF発現を誘導する可能性について検討する。さらに、F. nucleatum感染によりマスト細胞より産生されたMCETsが歯周組織において炎症を増悪させる可能性について、ヒト単球の炎症性サイトカイン産生により評価する。以上の研究計画により、歯周病原細菌の感染に際して、マスト細胞が好中球と同様に細胞外トラップ産生により慢性歯周炎における炎症の遷延化に関わる可能性を解明する。
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Causes of Carryover |
次年度使用額は、今年度の研究計画が効率的に進捗した結果、歯周病原細菌によるマスト細胞の細胞外トラップ産生に関する新たな知見を得た。同知見を含めた論文作成に関する実験の精緻な検討が必要となったため、次年度使用額が生じた。
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