2019 Fiscal Year Research-status Report
地元大阪の印刷所労働者胆管がん組織を使ったがん遺伝子の探索:創薬基盤の構築
Project/Area Number |
19K10604
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Research Institution | Osaka City University |
Principal Investigator |
川村 悦史 大阪市立大学, 大学院医学研究科, 助教 (60419710)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
村上 善基 東京医科大学, 医学部, 教授 (00397556)
松原 勤 大阪市立大学, 大学院医学研究科, 准教授 (20628698)
河田 則文 大阪市立大学, 大学院医学研究科, 教授 (30271191)
池田 一雄 大阪市立大学, 大学院医学研究科, 教授 (80275247)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 若年 / 胆管細胞癌 / 印刷所 / 胆管癌 / 遺伝子発現 / 大阪市 |
Outline of Annual Research Achievements |
胆管癌は、早期診断が難しく、外科的切除術後5年生存率は37%(肝内胆管癌、2005-2015年 国立がんセンター)と予後不良である。我々は、平成24年に地元の印刷会社における1,2-ジクロロプロパン(DCP)に起因する胆管癌の事例をきっかけに癌遺伝子探索を始めた。発症は1,2-DCPの代謝酵素の働きにおける個人差が一因と考え、27年度、我々はJSPS科研費No. 15K08716の助成により同印刷会社症例を含む胆管癌の外科的切除後腫瘍組織を用いて1,2-DCPの代謝と関わるRNA発現異常の探索を開始した。24例の肝胆道系腫瘍(胆管癌10例、対照として肝細胞癌10例、良性胆道腫瘍4例)の組織検体からRNA抽出液を得て、micro RNA(miR)、 messenger RNA(mRNA)に対する高感度マイクロアレイ解析を行なった。28年度、主成分解析により胆管癌の発症と関連する20個の有意なmiRを抽出し得た。この結果に基づき、米国国立生物工学情報センターのdatabaseを用いて特にターゲット効率の高い癌遺伝子SKI (Sloan-Kettering Instituteが発見したタンパクの名前) mRNAおよびmiR-3648を選別した。SKIは癌原遺伝子であり神経管形成やTGF-βの制御における働きがあるが、胆管癌との関係は明らかにされていない。我々の基礎研究によるとSKIはin vitroでヒト胆管癌細胞の細胞周期を抑える癌抑制遺伝子の働きを示す。 令和元年度、我々はJSPS科研費No. 19K10604の助成により解析をさらに進めており日本肝臓学会西部会、アジア太平洋肝臓学会において進捗状況を報告するに至った。上記の様に我々はSKIを中心に胆管癌抑制遺伝子の探索と機能解析を続けており一定の成果が得られている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成27年度以降、我々はJSPS科研費No. 15K08716の助成により大阪市で報告された職業性胆管癌症例を含む癌切除組織を検体として、(1)胆管癌の診断マーカー探索(高感度RNAマイクロアレイによる網羅的解析)、(2)(1)の結果のうち化学物質の代謝酵素と関連するRNAの定量的解析(職業性胆管癌の発症機序の推定)、(3)(1)の結果、抽出された100種類を超えるマーカー(miRおよびこれが制御するmRNA)において、web上の複数の遺伝子データベースによる胆管癌発症との関連が示唆される癌遺伝子の選別、を行なった。 (1)~(3)により、上記の代謝酵素と関連する遺伝子発現異常は特定されていないが、米国立生物工学情報センターが癌遺伝子として公表する数種の遺伝子、特に胆管癌抑制遺伝子SKIが特定された。我々はヒト胆管癌細胞株を使い癌遺伝子の機能解析に関する実験を行なってきた。令和元年度、我々はJSPS科研費No. 19K10604の助成によりSKI遺伝子とこれを制御する小分子核酸miR-3648の機能解析に取り組んできた。同年12月の日本肝臓学会西部会、令和2年3月のアジア太平洋肝臓学会(APASL)でSKIが胆管癌の細胞周期においてブレーキ役として働くことを口演発表した。また、我々は現在、論文化に取り組んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
1)我々は、令和元年度中にSKI遺伝子が細胞周期のブレーキ役である事を確認できた。ブレーキの仕組みとしては、同遺伝子が細胞周期関連タンパクであるp21(waf1/cip1)およびリン酸化ERK1/2を制御していることを定量的PCRとWestern blotで検証した。令和2年度、我々はSKIタンパクがCDKN1A(p21タンパクのコード遺伝子)およびDUSP2(ERK1/2脱リン酸化酵素タンパクのコード遺伝子)の転写を促進していることを検証する予定である。手法は現在のところ、ルシフェラーゼレポーターアッセイで試みている。 2)我々は、分化度の異なるヒト胆管癌細胞株を用いてSKI mRNAを制御するmiR-3648のノックダウン(miR-3648阻害剤の細胞への導入)によりSKI mRNAの発現亢進とこれに伴う胆管癌抑制効果が認められるか、細胞増殖アッセイにより検証する予定である。このアッセイはmiRによる核酸医薬品の開発に繋がる。さらにmiR-3648の生体内での挙動を可視化する手法としてmiR-3648を付加した蛍光ナノ粒子をヒト胆管癌細胞株に導入し過剰発現させ、これをマウスに異種移植して蛍光画像上でSKIの機能を解析する計画がある。 3)我々は臨床血清検体においても同様にSKI mRNAの機能解析を予定している。令和元年度に行なった外科的切除検体におけるSKIの免疫組織化学的染色によると胆管癌上皮では単位面積当りのSKI分布は低下している。そこで、miR-3648は組織や血清中で過剰発現している可能性がある。miRはわずかな体液でも腫瘍マーカーになり得るため、胆管癌症例の血清検体を用いた定量的PCRを行う予定である。
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Research Products
(4 results)