2020 Fiscal Year Research-status Report
ロボットメディアによる社会的認知のコントロール:心理・行動の誘導と臨床倫理
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19K11395
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
山崎スコウ 竜二 大阪大学, 先導的学際研究機構, 特任講師(常勤) (10623746)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 認知症 / BPSD / 重症度 / 対話システム / 機械学習 / 予測 / 誘導 / 徳倫理 |
Outline of Annual Research Achievements |
これまでにロボットメディアによる誘導の効果として認知症の行動・心理症状(BPSD)を改善する効果が明らかになってきた。その一方で、症状が悪化した状態では対応が困難となるため、いかにして初期段階で対応できるのかが新たに重要な検討課題となった。BPSDが発現する時期の早期の介入を実現するため、BPSDの重度化との関連が知られている認知症の重症度、CDR2、3とそれ以前のCDR1との境界を自動で識別する手法を検討した。そのため専門医によって認知症の診断を受けた患者の対話データを収集し、機械学習のアルゴリズム(SVM)を用いて解析を行った。CDRを目的変数とし、説明変数に年齢や認知症のタイプなどを検討した。解析の結果、罹患期間が有効な変数であるものの十分ではなく、対話への参加度・興奮度と組み合わせることで予測精度が向上することを発見した。本研究の意義として、ロボットによって収集できる日常的な対話データを用いた提案手法が、MRIやPETで大型装置や専門的技能を必要とした従来の推定技術と置き換わる、または相補的に発展するポテンシャルを示すことができた。本研究の成果は認知症の重度化に伴ってBPSDが悪化する前に対話によって緩和する予防的対処へと道を開くと同時に、認知症の人の心理、行動を予測し、先回りして一定の方向に誘導するメディア技術の可能性を示唆するものである。この誘導的技術の開発は本質的に人の振る舞いに関して、自らの意思決定に対する技術的介入でもある。そのため本研究はこの倫理的課題を提起し、かつ関連する思想的立場について検討を加えた。個人の自律性を尊重する義務論的な立場に対し、判断力の低下に伴う自ら決めることの困難やリスクを勘案し、帰結主義的に効用を最大化し、意思さえも変えるように導く立場を提案した。さらに利益や価値判断が恣意的になるリスクも考慮し、徳倫理に求められる公共性の観点から議論を提起して検討を進めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
フィールド実験で一部中断や開始の遅れがあるものの、代替手段も用いながら対話データの収集を進め、かつ国内外での議論を進めることができたため。
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Strategy for Future Research Activity |
BPSDの早期対応、予防的介入の実現に向けては、データ解析の自動化や予測精度の向上などの順次検討する課題を特定済みである。対話への参加度を対話リズムなどの分析から自動化する手法の検討を進めるとともに、データの分散と対象者の性質との関連を調べるなどの方法で識別精度の向上を図る。コロナ禍での制約により今は認知症のタイプなどによる分類に関してデータ数が限られているため、今後は家族の協力も得ながら、すでに始めていることであるが高齢者の自宅での対話データの収集を進める。さらに健常高齢者との比較も実施し、認知症の人の対話の特徴を明らかにすることで、効果的な対話手法の構築へとつなげる。対話の効果に関しては、対話中の高齢者の反応をはじめ、日常の言動や介護者との関係などへの波及効果を含めた多面的な検証を行う。対話と予測による技術的誘導が、自律尊重の原則に基づく高齢者ケアの担い手、受け手の価値観や実践、生活様式に及ぼす社会的影響と理論的含意について検討し、文化差も加味し国内外で議論を進める。
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Causes of Carryover |
次年度使用額はコロナ禍での実験方法や日程の変更、機材等物品の再検討、調査の実施に伴う諸々の調整のために生じた。使用計画として主に実験実施、機材調達、資料収集、オンライン集会も含めて国内外での研究動向調査および発表に用いる。
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