2020 Fiscal Year Research-status Report
軽度認知障害・軽度認知症本人が「幸せに生きていく」ことを支える支援に関する研究
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19K11432
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Research Institution | National Center for Geriatrics and Gerontology |
Principal Investigator |
牧 陽子 国立研究開発法人国立長寿医療研究センター, 長寿医療研修センター, 室長 (60642303)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
服部 英幸 国立研究開発法人国立長寿医療研究センター, 病院, 医師 (00298366)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 認知症 / 軽度認知障害 / 病識 / 社会認知 / 認知症の疾患受容 / 行動変容 / 認知症行動心理症状 / アルツハイマー型認知症 |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年度は、予備的介入ケーススタディ及び、認知症支援に関わる多職種(看護師5名・心理士1名・作業療法士1名・精神保健福祉士1名)でのコンセンサスメソッドによる介入方法の検証を行い、現在、論文投稿準備中である。 ケース報告は、認知症の前段階の軽度認知障害(MCI)の段階で、認知症発症を見越して本人・家族と価値観を共有し準備をすることの重要性を、4年前にMCIの診断を受けた75歳女性のケースで検討した。また、MCI・軽度認知症の段階で、行動変容の自覚を持つことの重要性を、家族に対して暴力行為のある2ケース(78歳男性MCI、および78歳男性アルツハイマー型認知症:ADD)で検討した。自己の状況・行為を客観的に認識・評価する病識の低下が認知症の症状としてあげられる。MCIのケースは病識が保たれており、本人が暴力の自制の意思を持ち、グループミーティングの介入により3か月間、暴力を自制することができた。一方、ADDのケースでは病識が低下し暴力の自覚がなく、自分の暴力行為も忘れてしまうため、暴力自制の動機を持てなかった。これらのケースの比較から、認知症を発症してもよりよく生きていくためには、病識が保たれているMCI・認知症軽度の段階で、どのように生きていきたいのかを家族等身近な人たちと意思を共有するとともに、周囲との良好な関係性を維持するために、どのような行動変容が必要かを自覚し自己変容をしていくことの重要性が示唆されていると考えられる。 そこで介入方法として、疾患受容、軽度の段階での家族・友人との関係性を支える支援を項目として加え、その他、感情面、コミュニケーション、運動、生活習慣、認知訓練、社会参加の支援に関して検討をした。各項目に関して、必要となる評価、本人・家族への情報提供および介入、支援側の心構え、支援体制として人的環境整備、および社会的・物的な環境調整に関して検討した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2019年度は、支援方法として‘Self Management of autonomous Interdependence Life Empowerment(SMILE)’を提案し、支援の展望論文、コミュニケーション支援、および、認知症者の社会参加に関して展望論文・総説を発表し、2020年度に予備的介入によるケース報告、認知症支援に関わる多職種による介入方法の検証を行い、概ね順調に進行している。 本研究では、臨床の実践知を検証し、支援方法として汎化していくことを目的としている。認知症高齢者は、特に軽度の段階では個人差が大きく、臨床支援では個別のテイラーメイド(TM)の介入が原則であり、近年、TMの枠組みが介入研究に取りこまれ、TM介入の比較対照実験が行われるようになっている。このTM介入研究では、介入プロトコルの自体の検証が重要であり、本研究も介入に先立って支援方法の検証を行っている。 認知症の支援では、自己の状況・行為を客観的に認識・評価する病識の低下および、他者の状況・心的状態を把握する社会認知の低下が課題となる。病識の低下により、行動変容の動機付けが困難になる。また、自立が障害される認知症では、生活全般に他者の支援が必要となっていくが、社会認知の低下により、他者との円滑なコミュニケーションが困難になっていくことが予想される。そこで、本支援では、本人・家族にMCI・認知症の疾患受容を促し、疾患の認識を前提として、家族を含め他者との関係性を再構築していく支援、および本人の病識・社会認知の低下を補う支援を重視している。 認知症の非薬物的介入は、認知訓練等認知機能向上が重視される傾向があるが、自立の障害される認知症は生活の障害ということができ、進行を見越してどのような生活を送っていくのか、本人と身近な人で意思決定を重ねていく支援の客観的検証が求められると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度は、介入方法を多職種でさらに検討をし、MCI・軽度認知症者及び家族への介入を実施する。介入人数・方法に関しては、今後の感染状況を踏まえて検討する。参加者が限定されることが予想されるが、ウェブを利用したリモートの介入も検討する。介入の結果を踏まえて、軽度認知障害・軽度認知症本人が「幸せに生きていく」ことを支える支援の在り方に関して総括を行う。MCI・軽度認知症の段階では、認知症発症・進行予防が強調され、認知訓練等の非薬物療法が推奨されるが、多くの認知症の原因疾患は進行性であり、予防とともに、進行を見据えた準備も必要となる。 自験例で、軽度認知症本人・家族へのインタビュー及び認知症専門医・認知症サポート医・認知症医療疾患センターコメディカルスタッフへのアンケート結果により、医療スタッフは認知症本人・家族が認知症を受容し、積極的に非薬物・社会支援に参加をすることを望む一方、本人・家族は現在提供されている非薬物、社会支援全般に積極的参加を望んでいないという認識の相違が示されている。本人・家族は認知症からの回復を望むが、根本治療薬のない現在では、服薬をしても進行は免れ得ない点が、本人・家族の認知症医療への最大の不満である(論文準備中)。実際、MCI・認知症発症後は非薬物療法による進行遅延のロバストなエビデンスの報告はなく、医療側は必ずしもエビデンスに基づいて非薬物療法を推奨できるということではない。 そこで、パターナリスティックに医療側が良いと思う支援を提供するのではなく、本人・家族の認知症があってもよりよく生きたいという意思を支えることにより、認知症を受容し、認知症による生活の変化も受け入れて、認知症を前提とする非薬物・社会支援も受け入れていくことができると考えられる。最終年度の2021年度は、MCI・認知症の診断後支援として、医療・福祉専門職としての支援を総括する。
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Causes of Carryover |
新型コロナウィルス感染拡大により、令和2年度の研究開始が遅れたことにより、論文の英文校正の校正会社への入稿が、令和3年度となったため。なお、令和2年度の論文は、令和3年度に英文校正を経て投稿を予定している。また、感染拡大により、当初予定をしていた国内外での学会発表に伴う旅費等の支出が無くなったため。感染状況によるが、可能であれば、令和3年度は学会発表を予定している。上記の通り、令和3年度は最終年度であり、成果の学会・論文発表は令和3年度中に行うこととする。 さらに、令和3年度は所属が変更となるため、研究遂行に必要となる物品購入は、令和3年度に行うこととした。
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Research Products
(3 results)