2019 Fiscal Year Research-status Report
GPUスーパーコンピュータによる原子炉内溶融物の移行挙動解析
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19K11992
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Research Institution | Japan Atomic Energy Agency |
Principal Investigator |
小野寺 直幸 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, システム計算科学センター, 研究職 (50614484)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
井戸村 泰宏 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, システム計算科学センター, 研究主幹 (00354580)
真弓 明恵 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, システム計算科学センター, 研究職 (20791396)
下川辺 隆史 東京大学, 情報基盤センター, 准教授 (40636049)
山田 進 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, システム計算科学センター, 研究主幹 (80360436)
山下 晋 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 原子力科学研究所 原子力基礎工学研究センター, 研究職 (80586272)
河村 拓馬 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, システム計算科学センター, 研究職 (90718248)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | GPU / 圧力Poisson解法 / マルチグリッド法 / 適合細分化格子法 |
Outline of Annual Research Achievements |
過酷事故(SA)時における原子炉内溶融物の移行挙動の解明は、事故後の炉内状況把握および廃炉作業効率化の観点から非常に重要である。一方、数値流体力学解析による溶融物の移行挙動の機構論的解析には、マルチスケール/マルチフィジクスに対応した高度な物理モデルと膨大な計算機資源が必要であり、実機を対象とした解析は殆ど行われていない。上記課題に対して、原子力機構では多相多成分熱流動解析コードJUPITERの開発を進めている。SA解析において、圧力容器内の燃料溶融からペデスタル内部のデブリ蓄積に至る全体像を解明するには、解析の更なる高解像度化および長時間解析が必須となっている。しかしながら、多相流体解析を大規模化する上で多種溶融物の質量・体積等の保存を課すために計算する圧力Poisson方程式がボトルネックとなっている。圧力Poisson方程式が与える大規模疎行列は反復行列解法によって計算するが、極端な密度比が行列の条件数を悪化させる多相流体問題では、問題規模の増大による収束特性の悪化および並列数の増大に伴う通信コストの顕在化が計算性能を劣化させて長時間解析を阻害する。 本研究では、GPUを利用したエクサスケール向けの多相流体解析を開発する。大規模な圧力Poisson方程式に対しては、GPU向けの省通信型マルチグリッド(MG)法を開発することで収束特性を改善すると共に、ステンシル計算向けのGPU最適化フレームワークやブロック型適合細分化格子(AMR)法といった最先端の計算機技術を活用することで解析の飛躍的な高速化する。以上の解析技術により、実機を対象とする溶融物の移行・蓄積挙動の長時間解析を実現することが初めて可能となる。本研究は福島第一原子力発電所の廃炉に向けたデブリ解析の基盤技術確立に繋がるだけでなく、様々な工学分野における多相流体解析にも大きく貢献できることが期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度の2019年度は、大規模計算のボトルネックとなる圧力Poisson方程式の高速化を推進した。SA解析等で対象とする複雑な流路形状に対応するために、研究代表者の小野寺がGPU向けに開発を進めてきたブロック型AMR法をJUPITERに適用した。JUPITERは直交座標系の構造格子を用いて開発されてきたが、円筒形状の炉心を解析する上で無駄な計算領域が多く含まれていた。これに対してブロック型AMR法を導入して無駄な計算領域を省くことで計算量を削減できる。また、ブロックデータ構造を採用することでGPU処理のデータアクセスを最適化した。 次にAMRフレームワーク上において、計算のボトルネックとなる圧力Poisson方程式のGPU向けMG法を開発した。MG法を適用したPoisson解法を用いて、気液多相流体解析を想定した5億格子点程度の計算体系に対して収束性能計算を実施したところ、MG法を適用しない前処理付き共役勾配(P-CG)法では収束に700回以上の反復計算を要したのに対して、3つの解像度を用いたV-cycle MG法では僅か100回の反復計算で収束を確認した。更なる高速化として、MG法を適用した前処理手法への単精度(FP32)演算の適用により、倍精度(FP64)と同様の収束履歴において計算時間を倍精度の60%程度に削減することに成功した。開発したPoisson解法に対して、GPUスーパーコンピュータTSUBAME3.0にて8台から216台のGPUを用いた強スケーリング性能測定を実施した結果、計算時間を1/3以下に削減することを成功した。以上より、初年度はGPU計算向けAMRフレームワークの適用およびMG法を適用したPoisson解法の開発により、大規模な多相流体計算に向けた基盤技術を構築した。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度はPoisson解法への通信削減技術の適用および多相流体問題への展開を計画している。2019年度に実施した強スケーリング性能測定では、8台から216台のGPUの利用により、計算時間の短縮に成功した。一方で、100台以上のGPUを利用した並列計算においては、GPU間の袖通信および集団通信等の通信時間が高速化の新たなボトルネックとなることが確認された。そのような問題に対して、袖通信に対してはGPU計算と袖通信を同時に実行するオーバーラップ手法の導入、集団通信に対しては集団通信回数が削減可能な省通信手法の導入により解決する。省通信型の反復固有値計算では省通信化するステップ数を増やすと通信量を削減できるが、演算量が増大し、数値安定性も劣化するというトレードオフが存在する。これに関しても、ハードウェア特性と問題の数学的特性に最も適合するステップ数を合理的に設定することで対象とする計算環境で最適な省通信アルゴリズムを実現している。このような反復行列解法の提案は異なる分野の専門家の密接な協業によって初めて可能となることから、極めて独自性が高い。 多相流体問題への適用として、共同研究者が所属する研究グループで実施している気泡上昇問題に対する解析を予定している。気液多相流体問題はSA解析と同様の流体の密度差を有した問題であるため、この解析の実施によりSA解析に必要な計算機台数と計算時間を見積もることが可能となる。ここでは、Poisson解法以外のCFD計算においてもGPU間の袖通信処理が高速化のボトルネックとなることが予想されるため、これをブロック単位で袖通信を行うことで袖通信回数を削減するテンポラルブロッキング法も適用により解決する。以上の研究の推進により、工学問題で重要となる気液多相流体解析が可能となり、SA解析へと発展させることができると考えている。
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Causes of Carryover |
令和元年度において、参加を予定していた国際会議x2件と国内会議x1件がcovid-19の影響を受けて延期と中止になったため、それらへの参加に係る費用が次年度使用額として生じることとなった。次年度使用額は2020年度経費と合わせて、2020年10月と12月に開催される国際会議への参加に係る費用として使用予定。
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