2021 Fiscal Year Research-status Report
窒素動態からみる斜面流出と流路内プロセスを合わせた渓流の水質形成機構
Project/Area Number |
19K12298
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
笠原 玉青 九州大学, 農学研究院, 准教授 (10622037)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 無機態窒素動態 / 山地渓流 / 斜面水 / 河川間隙水域 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、窒素動態に着目し、渓流における水質形成機構を斜面からの流出と流路内プロセスを組み合わせることによって明らかにすることを目的としている。これまでの調査から、調査区間において渓流水の硝酸態窒素濃度は、平水時と出水時の両方において斜面水よりも高い傾向にあることが観察され、斜面水が渓流水を希釈していることが示唆された。また、表流水が河川間隙水域に浸透し流路に戻る水の循環も、渓流水の硝酸態窒素濃度に影響していると考えられた。トレーサー実験の結果から、希釈法から計算した流量と、下流地点のトレーサー到達量から水の交換量を測定すると、流路長約80m区間で流量の>20%が河川間隙水域と水の交換を行っていることがわかった。硝酸態窒素をトレーサーとして用いると、希釈を考慮しても、硝酸態窒素濃度は調査区間内で減少し、流路内プロセスは硝酸態窒素濃度に大きく影響していることが示唆された。本年度は、トレーサー実験を異なる季節で実施した。硝酸態窒素濃度の減少率は季節を通して同程度であり、季節性は確認できなかった。硝酸態窒素の取込距離を計算すると、本調査地は森林渓流で実施された既存の研究よりも長い傾向がみられた。つまり、硝酸の取込が小さい。一方、都市・農地河川と比較すると、同程度の硝酸態窒素濃度を持つ河川よりは取込距離が短かった。本調査地は、渓流域である関わらず1.2 mg/L NO3-N以上と慢性的に高い硝酸態窒素濃度を持つため、他の渓流よりも取込距離が長かったが、都市・農地河川に比べると地形が複雑であるために、それらの河川と比べると取込距離が短いと考えられた。調査区間では、栄養塩動態への影響の大きい有機物の貯留・分解も複数の季節で実施した。その結果、瀬淵構造や河川間隙水域が有機物の貯留・分解の場として重要な役割を果たしていることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、季節性に重点をおいて調査を行った。昨年度は4区間で調査を行っていたが、その中から対象区間を2区間に絞り、春、夏、秋でトレーサー実験を行った。昨年度になるが、冬に実施した実験も合わせて、流路内での無機態窒素動態の季節性について考察を行っている。バックグラウンドの硝酸態窒素に季節性はないものの、水温などの環境要因が異なるために、結果が季節によって異なると予測していたが、季節を通して同程度の窒素保持量が観測された。 感染症対策の関係で、調査が制限されている期間があったために、河川地形に着目した調査は次年度実施することとした。次年度は、河川地形(ステップ―プール、瀬淵、副流路など)に着目して、トレーサー実験と定点観測を組み合わせて実施していく予定であるあ。また、渓流路の操作実験の実施も考えている。 本年度は、無機態窒素の観測・実験に加え、栄養塩動態への影響が大きい有機物の貯留・分解の調査も春・秋に実施した。瀬淵構造や河川間隙水域が有機物の貯留・分解の場として重要な役割を果たしているなど興味深い結果を得ることができており、今後は無機態窒素動態と有機物動態をリンクして、水質形成プロセスを解明していく予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は季節性に重点を置いたので、次年度は渓流地形(ステップ―プール、瀬淵、副流路など)に着目して、硝酸態窒素の動態に渓流地形が与える影響を明らかにする。ただし、気温や出水などの環境要因の変動は年によって異なるので、本年度も各季節での観測・実験を繰り返すことで、季節的変動に関する理解を深める。 次年度を最終年度とし、これまで実施してきた、定点観測、トレーサー実験、有機物動態などの研究結果をリンクして、流路内プロセスと時空間的変動を考慮した渓流の水質形成機構の構築する。
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Causes of Carryover |
本年度に実施予定の野外調査がすべて終わらなかったため、次年度にかけても定点観測やトレーサー実験、それらにともなう水質分析は継続する。そのため、野外調査の消耗品や水質分析の費用を次年度も使用する予定である。調査を行っている複数のコンポーネントを統合していく作業も行うため、モデルを用いた解析なども、次年度に継続する。本年度は森林学会で研究成果の発表を行ったが、次年度は河川の研究者や管理者が集う応用生態工学会などでも研究成果の発表を行う予定である。
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Research Products
(4 results)