2020 Fiscal Year Research-status Report
Study on Protective Effects of NRF2, an Anti-oxidative Stress Transcription Factor, against Radiation-induced Oncogenesis and Mutagenesis
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19K12338
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Research Institution | Radiation Effects Research Foundation |
Principal Investigator |
田邉 修 公益財団法人放射線影響研究所, バイオサンプル研究センター, センター長 (70221398)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
松田 由喜子 公益財団法人放射線影響研究所, 分子生物科学部, 研究員 (10735301)
吉田 稚明 公益財団法人放射線影響研究所, 広島臨床研究部, 副主任研究員 (20832926)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | X線 / 体細胞変異 / 胸腺リンパ腫 / 活性酸素 / 酸化ストレス応答 / NRF2 / Keap1 / 造血幹細胞 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、放射線による体細胞変異と発がんに対して、転写因子NRF2により誘導される酸化ストレス応答が防御作用を示すか否かを明らかにすることである。放射線による発がんの原因はDNA損傷による体細胞変異であり、X線によるDNA損傷の主たるメカニズムは、水分子の電離により生ずる活性酸素などのラジカルによる損傷である。本研究の方法としては、NRF2欠損変異マウス、あるいはNRF2を恒常的に活性化した変異マウスと、それぞれの対照マウスに対して、全身X線照射した場合としない場合とで、体細胞変異の発生頻度とがん発生率とを比較することにより、放射線による変異誘発と発がん作用に対するNRF2活性の影響を調べる。NRF2を恒常的に活性化した変異マウスとしては、NRF2の抑制因子であるKeap1の変異マウスを用いる。体細胞変異の発生頻度は、造血幹細胞に由来するクローナルな細胞集団の全ゲノムシーケンス解析により測定する。より具体的には、NRF2欠損マウスとKeap1変異マウス及びそれぞれの対照マウスにX線照射した場合としない場合とで、骨髄より造血幹細胞を分離、培養して血球コロニーを形成させてクローナルな細胞集団を得る。これら細胞集団のDNAと、同一個体の尾組織より抽出したDNAとの全ゲノムシーケンス解析結果を比較することにより体細胞変異を同定する。これまでの研究により、野生型C57BL/6J系統マウスにおいて、1塩基置換、短い欠失などの変異が、照射するX線量に依存して増加することが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1)体細胞変異に対するNRF2による防御作用 NRF2欠損マウス、Keap1変異マウス及びそれぞれの対照マウスに全身X線照射した場合としない場合とで、骨髄造血幹細胞に由来するクローナルな細胞集団の全ゲノムシーケンス解析を行っている。幹細胞由来のクローンと、同一個体の尾組織より抽出したDNAとの全ゲノムシーケンス解析結果を比較することによりX線照射による体細胞変異を同定する。変異頻度を異なるマウス遺伝子型間で比較することにより、放射線による体細胞変異に対するNRF2による防御作用を明らかにする。令和2年度には、C57BL/6J系統の野生型マウスを用いて、全身X線照射及び非照射での体細胞変異の頻度を測定した。X線照射したマウスの骨髄よりセルソータ等を用いて造血幹細胞を分離、培養してコロニー形成させることにより、クローナルな細胞集団を得てDNAを抽出し、全ゲノムシーケンス解析を行った。その結果から塩基置換などの変異が、照射X線量に依存して増加することがわかった。 2)発がんに対するNRF2による防御作用 放射線発がんモデルとしてC57BL/6J系統マウスを用いる。この系統では、X線照射を行うことにより、90%以上のマウスに胸腺リンパ腫が発生することが知られている。理研バイオリソース研究センターより入手したNRF2欠損マウスとKeap1変異マウスは、C57BL/6J系統であるため、戻し交配を行うことなく実験に使用可能である。それぞれの対照マウスとともに、X線照射を行う群と行わない群における胸腺リンパ腫発生率を遺伝子型ごとに比較することにより、X線照射による発がん効果を算出し、これを異なるマウス遺伝子型間で比較することにより、放射線発がんに対するNRF2による防御作用を明らかにする。令和2年度には、NRF2欠損マウスとKeap1変異マウスとを、C57BL/6J系統野生型マウスと交配させて繁殖させた。
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Strategy for Future Research Activity |
放射線による体細胞変異と発がんに対する、転写因子NRF2による防御作用の研究を以下の通り推進する。 1)体細胞変異に対するNRF2による防御作用 NRF2欠損マウスとKeap1変異マウス及びそれぞれの対照マウスに3 GyのX線照射した場合としない場合とで、造血幹細胞由来のクローンと尾組織から抽出したDNAの全ゲノムシーケンス解析を行う。両者の結果を比較することによりX線照射による変異誘発率を測定し、これを異なる遺伝子型間で比較することにより、放射線による体細胞変異に対するNRF2活性の影響を明らかにする。 2)発がんに対するNRF2による防御作用 C57BL/6J系統のNRF2欠損マウスとKeap1変異マウスを繁殖させた後に、対照マウスとともに8週齢時に1回1.6 Gyの全身X線照射を4回行った後にさらに長期飼育する。各遺伝子型のマウス数は80匹以上とする。対照として、X線照射を行わない各遺伝子型のマウス80匹以上も同様に長期飼育する。X線照射を行う群と行わない群における胸腺リンパ腫発生率を各遺伝子型ごとに比較することにより、X線照射による発がん効果を定量し、これを異なるマウス遺伝子型間で比較することにより、放射線発がんに対するNRF2による防御作用を明らかにする。胸腺リンパ腫の診断は、リンパ節腫大、肝脾腫、全身状態悪化などの認められる個体について解剖を行い、胸腺の計測、計量及び組織学的分析と、末梢血、骨髄及び胸腺細胞のメイギムザ染色及びフローサイトメトリー分析により行う。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由は下記の通りである。令和2年度中に、NRF2欠損マウスまたはKeap1変異マウスと対照マウスに3 GyのX線照射した場合としない場合とで、各マウスの造血幹細胞由来のクローンと尾組織から抽出したDNA検体の全ゲノムシーケンス解析を行う予定であった。しかし、すべてのDNA検体の取得が令和2年度中に終了しなかったため、予定していたマウス全ゲノムシーケンス解析委託の一部を令和3年度に行うように計画を一部変更したために次年度使用額が生じた。従って、次年度使用額の使用計画としては、これらDNA検体を用いた全ゲノムシーケンス解析委託の費用に充てる予定である。
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