2019 Fiscal Year Research-status Report
有明海の第三の人工構造物・ノリひび網設置による流れの変化に伴う魚類成育場への影響
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19K12417
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Research Institution | Kochi University |
Principal Investigator |
木下 泉 高知大学, 教育研究部総合科学系黒潮圏科学部門, 教授 (60225000)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
速水 祐一 佐賀大学, 農学部, 准教授 (00335887)
田原 大輔 福井県立大学, 海洋生物資源学部, 准教授 (20295538)
太田 太郎 公立鳥取環境大学, 人間形成教育センター, 准教授 (30504500)
川村 嘉応 佐賀大学, 農学部, 特任教授 (30601603)
斉藤 知己 高知大学, 教育研究部総合科学系複合領域科学部門, 准教授 (80632603)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 有明海 / ノリひび網 / 魚類成育場 / 河口域 / 流れ |
Outline of Annual Research Achievements |
有明海異変として,魚介類資源の減少が続いている.これまで,漁獲量は,巨大人工構造物である1985年完成の筑後大堰と1997年締切の諫早湾潮受け堤防,特に後者に多きく影響を受けたとされている.しかし,漁獲量減少は1980年代前半に,すでに始まっており,その原因を大堰と諌早湾締切りのみに求めるのには無理がある.そこで,元々,同海にはほとんど生育していなかったノリ漁業に注目した.第三の巨大人工構造物と言えるノリひび網群は秋~冬季の半年間,湾奥部沿岸を被っている.ノリひび網の同海特有の反時計回りの恒流への影響と特に魚介類の浮遊期~着底までの輸送との関係に注目して,資源減少の要因を科学的に明らかにする. 2019年度では,5,7,11月,翌2および3月,湾奥部主要河川(塩田川,六角川,早津江川,矢部川), 諫早湾および諫早調整池において魚類採集,プランクトン採集および海洋観測(水温・塩分,濁度・光量子,クロロフィルa,流向・流速)を実施し,水域間で比較検討した.この内,ノリひび網業の開始期の11月と繁忙期の2月において,ひび網濃密域を挟んで流向・流速の観測,およびそれに伴う魚類を含む動物プランクトンの分布を比較・検討した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
① 諫早湾調整池では,本来,遡河回遊魚であるはずのエツおよび汽水魚のワラスボ(両種とも有明海固有種)の再生産がみられ,本池が持続的な特殊な生態系を形成していることが改めて再確認された. ② 沖合で産卵され反時計廻りの恒流によって湾奥部河口域に輸送されるスズキ・コウライアカシタビラメの仔稚魚が,2003年初春季以来,爆発的に各河川河口域に出現した.さらに,スズキでは,普段は1月頃に出現するはずの一般タイプの脊索上屈直後の仔魚が3月下旬にも拘らず,いずれの河川にもかなり遡上していた.これは,極めて特異な現象であり,有明海のスズキの資源変動の兆候といえるかもしれない. ③ 2019年度のノリの生育は,例年に比べてかなり悪かったが,これは湾外水からの貧栄養分水の流入によるものと推察された.ノリの生産高を,スズキ・コウライアカシタビラメ仔稚魚の卓越した2002年度と2019年度間で比較すると,共通して色落ちのため,両年度不作であり,貧栄養の湾外水(深層水ではない)の流入の影響に起因する可能性が出て来た.すなわち,沖合からの仔魚の輸送の多寡とノリひび網とは被害者-加害者の関係ではなく,湾外水の影響による損益は両者で相反なのかもしれない. ④ 堤防外の諫早湾では,異体類,ニベ類などの着底稚魚は年々増加の傾向にあるが,それらの浮遊期仔魚は全く分布していない.これは,湾奥部河口域で着底した稚魚が諫早湾に回遊して来ていることを示している.この現象は潮受堤防の締切前と同様であったか否かは極めて重要な問題であるが,締切前,浅海域を成育場として捉えたアセスメント調査は不十分なため正確に比較できない.
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Strategy for Future Research Activity |
1) ひび網よりも陸側で産卵する種類と沖合で産卵する種類との比較.2) 浮遊期をひび網設置期間(秋‐冬季)に過ごす種類と不設置期間(春‐夏季)に過ごす種類の比較.3) ひび網群の西部・東部間での比較.これらを次の項目で比較・検討する ① 魚介類(魚類・甲殻類)浮遊期の把握:湾央部から湾奥部にかけて設定した定点において,稚魚ネットによる傾斜曳,桁網改と桁網による採集.浮遊期と底生期での分布の把握.② 着底期と成育場の把握.③ 主要魚種(特にスズキ,エツ,ヤマノカミ)の耳石分析:回遊履歴の把握のためのSr/Ca比の分析.④ 主要種(特にスズキ)の遺伝的系群・多様性:各河川河口域および諫早湾調整池に分布する主要魚介類の遺伝的系群について核酸分子により,遺伝的多様性に関してmt-DNAにより分析.⑤ 動物プランクトン:プランクトンネットにより,仔稚魚の食物として重要なプランクトンの採集を行う.特に,湾外水による湾奥東西での比較.⑥ 物理的環境:CTDにより水温・塩分・濁度を,ADCPにより流向・流速を計測し,海洋物理構造,特に湾外水の影響を把握.特に,産卵場から成育場までの魚介類幼期の輸送・回遊と成育場での滞在に影響を与える潮流・残差流の特性. これらの中で,2020年度では,湾外水の動向に注目して,ノリひび網群と流れとの関係は,網群を東西に挟んだ調査では,湾北部の沿岸から沖合にかけて広く調査定点を設けることによって見出すことに力点を置きたい.また,来年度では魚類のみならずエビ類の浮遊期から着底期までの動態をノリひび網の繁忙期と閑散期の間で比較・検討する.
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Causes of Carryover |
分担者の2名が,新型コロナ・ウィルス禍のために,予定していた調査を全て実施できず,残余額を次年度に繰り越したためである.
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Research Products
(32 results)