2021 Fiscal Year Research-status Report
複合現実体験としての聖地巡礼:ルルドをはじめとする19世紀西欧における虚実の融合
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19K12588
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Research Institution | Rikkyo University |
Principal Investigator |
石橋 正孝 立教大学, 観光学部, 准教授 (70725811)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
羽生 敦子 白百合女子大学, 言語・文学研究センター, 研究員 (90744780)
平賀 美奈子 (河野美奈子) 立教大学, ランゲージセンター, 教育講師 (20795570)
舛谷 鋭 立教大学, 観光学部, 教授 (90277806)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 観光 / 聖地巡礼 / ゲニウス・ロキ / モデル作者 / コンテンツ・ツーリズム / 複合現実 / パリ神話 / 分霊 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、聖母出現によってカトリック有数の聖地となったフランスのルルド、シャーロック・ホームズに代表される「キャラクター」をめぐってファンが行う「聖地巡礼」、そして19世紀の英米における心霊主義を比較対照することによって、19世紀以後の大衆消費社会に特有の虚実融合現象に基づく特殊な共同体として観光を再定義するとともに、そこでの想像力の役割を解明することを目指している。当該年度の研究実績の概要は、主として以下の二点に要約できる。 ①昨年度に引き続き、国内における「コピー版ルルド」、とりわけ長崎の浦上地区の事例を調査、ルルドという土地の力の「移し/写し」を実践した事例の収集と分析を進め、研究分担者が成果の一端を論文化した。すなわち、ルルドの「分霊」の結果として観光が移植されず、原爆投下によって観光地化が阻害されている。 ②観光における想像力の問題を検討する「観光文学研究会」を12回にわたって開催し、日本文学研究者、フランス文学研究者、韓国文学研究者、中国文学研究者、台湾文学研究者、地理学者、社会学者、都市工学研究者、日本史研究者らを招いて発表を依頼し、意見交換を行った。研究代表者は、そこでの議論から得た示唆に基づき、自身が監訳者を務めたメサック著『「探偵小説」の考古学』の解題において、擬似科学的想像力および「パリ神話」に関する議論を展開した。「パリ神話」は現状維持のイデオロギーだが、ルルドの聖地化のプロセスでは、同様のメカニズムが逆に作用した可能性がある。 以上の研究活動により、比較対象を広げると同時に、多分野の研究者とのネットワークを構築することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
昨年度同様、新型コロナウィルス感染症の世界的流行のために、予定していた現地調査を実施できなかった。このことは、聖母出現現象と観光の関係を解明するという、本研究の根幹に当たる課題がはかばかしく進捗しなかったことを意味する。他方で、長崎・浦上地区におけるコピー版ルルドをめぐる現地調査およびそれに基づく考察は進展を見せた。すなわち、隠れキリシタンという奇跡が起きた地に湧き出す泉が、ルルドの「ゲニウス・ロキ」を「分霊」する媒体として相応しいとフランス人宣教師たちに見做された形跡が認められる反面、この地に原爆が投下されたことから、負のイメージだけが現在まで引き継がれ、隠れキリシタンの記憶を中心とする観光地化の対象から浦上が排除されている実態が浮き彫りになった。言い換えれば、コピー版ルルドは、ルルドにおける「観光」を浦上に「移す/写す」には至っていないどころか、逆効果を生んでいるわけであり、本家の観光現象を理解する上で示唆的であると考えられる。また、昨年度以上に積極的に研究会を開催して多くの異分野の研究者たちと交流し、問題意識を共有できた。特に有益な示唆を得られたのは「パリ神話」(ロジェ・カイヨワ)である。19世紀の華やかなパリの裏側に犯罪都市を透視する「パリ神話」は現状維持を志向させるのに対し、衰退した街区に過去の栄光を投影する逆パターンは、マレ地区を典型としてジェントリフィケーションを推し進める原動力となりうる。このメカニズムはルルドの聖地化プロセスにも適用できるだろう。
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Strategy for Future Research Activity |
新型コロナ感染症の流行を受け、当初は想定されていなかった方向に研究が発展しているとはいえ、本来の研究に関する限り、大幅な遅滞を余儀なくされており、研究期間の1年延長をお認めいただいた。最終年度である2022年度は、海外渡航が可能になり次第、現地調査に赴くことを優先しつつ、引き続き「観光文学研究会」の開催を通じた他分野の研究者との意見交換を積極的に行い、成果を順次論文化していく。
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Causes of Carryover |
新型コロナウィルス感染症の世界的流行のため、当該年度に予定していた海外における調査が実施できなかったため、研究期間を一年延長し、そのための経費を繰り越すこととなった。出張旅費に使用する予定である。
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