2020 Fiscal Year Research-status Report
Rethinking the Concept of Agency: From Hegelian Point of View
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19K12925
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Research Institution | Miyazaki Municipal University |
Principal Investigator |
川瀬 和也 宮崎公立大学, 人文学部, 准教授 (90738022)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 行為者性 / 自律性 / 人格の同一性 / 実践的アイデンティティ / 人格的自律 / 意図 |
Outline of Annual Research Achievements |
分析的行為論における行為者性と自律性の問題の関係についての研究を集中的に実施し、論文の形で成果を公表した。自律性の観点から行為者性を説明する立場について研究を進めたことで、行為者性・自律性と人格の同一性の問題との関係が重要であることを明確にすることができた。これについて、人格の物語的同一性と実践的同一性という二つの観点から検討をすすめた。 具体的には、論文「自律的行為と行為者のアイデンティティ」において、M. E. ブラットマンによる自律性の観点からの行為者性の説明について検討した。ブラットマンは、計画や自律性の観点から、ある人が行為者であるとはどういうことかについての、自然科学と矛盾しないという意味での自然主義的な説明を試みている。このブラットマンの議論について、似た立場を取っているH. G. フランクファートおよびC. M. コースガードの議論と比較し、それぞれの立場の特徴を明らかにした。 これらの立場の違いが明確になる論点の一つが、人格の同一性ないし実践的アイデンティティに関する論点である。ブラットマンは、近世イギリスの哲学者ジョン・ロックや、現代の哲学者D. パーフィットらの議論を参照しながら、人格の同一性について心理的なつながりをもとに説明し、この考えが自らの自律性に基づく行為者性の理論と整合的であるとしている。これに対して、コースガードは、パーフィットの議論では、心理状態を受け身で経験する主体としての受動的なアイデンティティしか捉えられず、行為者としての能動的なアイデンティティはうまく説明できないとしている。ブラットマンにおいては、行為者としてのアイデンティティの考え方とパーフィットの議論が接続されているため、この点でブラットマンとコースガードは対立することになる。この検討によって、行為者性・自律性の問題が、人格の同一性と深く関わることを明らかにすることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
概ね順調に進展していると考える理由は下記の通りである。 第一に、行為者性と自律性の問題が、人格の同一性の問題と深く関わることを明らかにし、研究をさらに深めるための鉱脈をつかむことができた。人格の同一性や実践的アイデンティティの問題は、自我の真正性といった問題とも深く関わってくる。この観点から研究を進めることで、行為者性についてのより深い理解を可能とすることができる。この方向で、令和3年度の早い時期に既に口頭での研究発表を計画しており、論文も執筆予定である。 第二に、ヘーゲルの実践哲学・行為論についても、まだ論文の形になってはいないが、研究を進展させることができた。これについてもすでに口頭での発表の予定があり、その後論文にまとめる計画もある。行為者性の問題が人格の同一性の問題に接続されることを明確にしたことで、ヘーゲルの実践哲学と、現代の行為論との接点をより多角的に捉えられるようになった。また、現代であればメタ倫理学的な研究と言われうるような、規範性をめぐるヘーゲルの思索を、行為者性の問題と結びつけることも、アイデンティティの問題の重要性を明らかにしたことで可能となった。 第三に、政治哲学・社会哲学つながりがより明確に見出されたことが挙げられる。行為者性とセットで用いられ、本研究でもキーコンセプトとなる「自律」の概念は、政治哲学・社会哲学の分野と倫理学や行為論の分野でそれぞれ少しずつ異なるニュアンスを持ちながら、つながりのある形で用いられている。このことが確認できたことに加え、人格の同一性という当初想定していなかった形而上学的な問題領域にまで議論が接続でき、本研究の射程が当初の計画考えていた以上に広いことが明らかになった。 第四に、オンラインでの研究会のネットワーク作りが進展したことが挙げられる。これにより令和3年度以後の研究をさらに加速させられると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は、新型コロナウイルスによるパンデミックの影響で国内外の学会に参加することが困難になったため、研究遂行の具体的な方法を大きく変更することを余儀なくされている。本研究の最終年度にあたる令和4年度までに状況が好転するかどうかについては、依然として不明確な状況が続いている。こうした状況に鑑みて、本年度以後は、パンデミックが収束しない前提で、オンラインによる研究ネットワークのさらなる強化に取り組み、研究計画を立て直し加速化させていきたいと考えている。 研究内容の面では、行為者性や自律性の問題、また関係的自律性の問題を考えるにあたって、改めて人格の同一性や真正性の問題との関係に光を当てる必要があることが、これまでの研究によって見出された。令和3年度には、この観点からの研究をさらに深めていく。これを通じて、行為者性の問題が行為の哲学だけの問題ではなく、政治哲学や社会哲学、倫理学、形而上学を横断する重要な問題であることを明らかにするとともに、これらの分野に波及しうるような行為者性の新たな捉え方を見出していくことを計画している。 また、並行して進めているヘーゲルの実践哲学研究についても、行為者性と自律およびアイデンティティの研究と相互に深め合う形で、令和3年度中には一定の研究成果を公表できるようにすることを計画している。ヘーゲルの関連するテクストには、『精神現象学』『法の哲学』のほか、『歴史哲学(世界史の哲学)講義』等が挙げられる。これらのうち、令和3年度は、『精神現象学』における関連する議論について研究成果をまとめたいと考えている。
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Causes of Carryover |
新型コロナウィルスによるパンデミックが想定以上に長引いているため、支出計画の大幅な変更が必要となっている状況である。本年度は海外研究機関での在外研究を令和3年度以後に実施できるように、次年度使用額として予算を繰り越した。 引き続きパンデミックの状況を睨みながらの予算執行となるが、場合によっては在外研究を諦め、予算額の制約から購入を諦めていた書物や、研究の進展で新たに必要となった書籍・文献を中心とする物品の購入に充てることも視野に入れたいと考えている。
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Research Products
(2 results)