2019 Fiscal Year Research-status Report
「文豪」夏目漱石像と岩波文化の研究:小林勇旧蔵『漱石全集』編纂関連資料を用いて
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19K13072
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Research Institution | Otani University |
Principal Investigator |
服部 徹也 大谷大学, 文学部, 助教 (80823228)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 夏目漱石 / 岩波書店 / 資料研究 / アーカイブ / 出版研究 / 書誌学 |
Outline of Annual Research Achievements |
2019年度は『漱石全集』編纂関連資料のうち、1935年に岩波書店より刊行されたいわゆる決定版『漱石全集』を中心に据えた。この決定版全集は小宮豊隆が実質的に監修者となり、岩波書店員による綿密な本文校訂が加えられたほか、各巻には小宮による作品解説が附され、全巻を横断的に検索することができる総索引が付属するという、『漱石全集』の歴史のなかでも記念すべき巻である。その編纂過程を記録した文書を中心に撮影を行ない、翻刻を進めた。加えて、各巻解説をもとに漱石の総合的な伝記としてリライトした小宮豊隆の『夏目漱石』の初校ゲラの撮影を行なった。同書は、その後の漱石受容を方向付けたものとして大きな影響力を持ち、同書を批判的に言及することによって文芸批評家達は自らのスタンスを示してきた。その意味で、小宮豊隆がどのような点にこだわって加筆修正を行なっていたのかをゲラの書き込みから考察していくことは、同書による漱石像形成のバイアスを検討することに大きく役立つことであろう。 これらのデジタル写真と翻刻データは、将来的にデジタル画像データベースとして公開する可能性を念頭に置き、整理と関連付けを行なった。 決定版全集には、新収録の逸文の発見者であり、図版として「『漱石全集』月報」を彩る漱石関連物品(たとえば漱石作品が新派劇化された時の番付など)を収集した、鎌倉幸光というコレクターが大きな役割を果たしている。鎌倉は単にコレクターであるだけではなく、漱石の著作や漱石に関する著作の網羅的な目録作成を目指していた。数次にわたり発表された鎌倉による文献目録を入手・比較することで、漱石研究の最初期における書誌学的研究の成果としての意義を検討した。あわせて、不明な点の多かった鎌倉について伝記的調査を行なった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
資料撮影環境の整備に想定以上の時間を要し、全体として作業が遅れた。
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Strategy for Future Research Activity |
資料撮影を継続するとともに、翻刻に当たる人員を増やして作業を加速させる。また、『漱石全集』や岩波書店に関連する文献の収集と通覧を進め、撮影・翻刻した資料に注釈を付していく。一定量の成果をまとめたのち、文学資料のアーカイブ化に造詣の深い研究者に助言を求める。
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Causes of Carryover |
撮影作業が予定より遅れたため、次年度に撮影作業の人員を増やし、早急に作業を進める予定である。そのための人件費として使用する。
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Research Products
(3 results)