2021 Fiscal Year Research-status Report
「文豪」夏目漱石像と岩波文化の研究:小林勇旧蔵『漱石全集』編纂関連資料を用いて
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19K13072
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Research Institution | Toyo University |
Principal Investigator |
服部 徹也 東洋大学, 文学部, 講師 (80823228)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 夏目漱石 / 岩波書店 |
Outline of Annual Research Achievements |
『漱石全集』刊行に関する資料について、撮影した膨大なデジタル画像を翻刻し、画像とテクストデータを関連付けるソフトフェア「Tropy」を用いて、キーワード検索可能な簡易的データベースを作成した。これにより、人名や社名などを検索ワードとして横断的に資料を分析することが可能になり、資料の分析効率が飛躍的に向上することが期待される。 また、夏目漱石が東京帝国大学で行なった「18世紀英文学」講義の受講ノート(県立神奈川近代文学館所蔵)の一部を翻刻して注釈を付し、「写生文」の概念とどのように関わる講義内容であるかを明らかにすることができた。その成果は所属大学の紀要に掲載した。 前年度、岩波書店版『漱石全集』各種の研究に先立って、戦後の漱石研究をささえた功労者の一人である荒正人の作成した各種の漱石年譜を収集し、比較を行なったが、そこで明らかになった漱石の徴兵忌避をめぐる表記の揺れにもとづき、文芸評論家丸谷才一の「徴兵忌避者としての夏目漱石」(1969)で言及する年譜がどの年譜であったのかを特定し、実証的な漱石研究の蓄積が丸谷の半ば創造的ともいえる文芸評論の素地となっていたことを突き止めた。丸谷の同評論文に呼応する形で小説家・文芸評論家大岡昇平は「漱石と国家意識」(1972)を発表し、狭義の「漱石研究」の外部から、漱石研究者が漱石を倫理的に免責してきたことを批判した。こうした一連の漱石論は、事実をめぐる実証的研究と、小説作品の読解(文芸評論)という虚構をめぐる問題系、日本の戦争責任という歴史認識や反ベトナム戦争という同時代思潮などが絡み合う、独特のコミュニケーションを生じていた。こうした事態を、フィクション概念をめぐるHenrik Skov Nielsenらの議論を参照して分析し、社会における一種のコミュニケーション手段としての文学研究の特質を論じ、論文にまとめた(近刊)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
新型コロナウイルス対応により文学館などを訪問しておこなう資料調査を中止せざるを得なかった。リモートワーク環境を整備し、資料画像のデータベース化を進めることができたことは一定の達成といえる。
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Strategy for Future Research Activity |
新型コロナウイルスの流行状況を鑑みながら、地方文学館への資料調査訪問を行なうとともに、新たに存在が判明した夏目漱石『文学評論』の出版関係資料に調査範囲を広げ、『漱石全集』関係資料と横断的に分析を進める。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルスの状況により出張調査を中止したため、未使用額が残った。今年度は状況を鑑みながら、出張調査を実施する計画である。また、新たに存在が判明した資料についても追加的な調査を実施する。
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Research Products
(2 results)