2020 Fiscal Year Research-status Report
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19K13093
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Research Institution | Ibaraki National College of Technology |
Principal Investigator |
加藤 文彬 茨城工業高等専門学校, 国際創造工学科, 助教 (30758537)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 初唐 / 王績 |
Outline of Annual Research Achievements |
昨年度に引き続き、宮廷社会との関わりが断たれた後の作品群を丁寧に読み解き、初唐期の宮廷文壇を外側から照射するという方法をとった。当該年度は初唐の王績の長編賦「遊北山賦」を中心に取り上げ、彼の隠遁観を明らかにした。 彼が若年に制作した「登龍門憶禹賦」は、薛道衡に「今之ユ信也」と評された。唐の太宗が「秋日ユ信體」を制作している通り、当時ユ信は六朝末期の修辞主義的文学の代表として捉えられていたことは明らかである。王績の「登龍門憶禹賦」がユ信に比されているということは、すなわち彼も修辞主義的文学の素養は持っていた、ということである。現存する「三月三日賦」「元正賦」に於いてもその素養は発揮されており、例えば賦の形式の中に詩句をいれこみ、反復的表現を行う点などは明らかに六朝末期の文学を意識したものである。それでも、宮廷での栄達が叶わずに隠者として生きざるを得ない状況となった際に求めたのは、「元正賦」の如き修辞主義的文学ではなく平明な言葉であった。 隠遁後、彼はその詩中に於いて時には神仙を求めることの無意味さを述べ、また世俗の煩わしさを述べることで、隠遁空間に在る自己を相対的に認めていた。しかし「遊北山賦」では、仙界も世俗も全てを含んだ絶対的に肯定できるものとしての隠遁空間の獲得に成功していた。その様な表現を選び取ったのは、隠者足らざるを得ない自己を肯定する為であったことを明らかにした。 王績は陶淵明の模倣者と見做され、その文学が顧みられることも僅かであった。しかし、彼の最終的な隠遁観が、宮廷社会に対する敗北感、そして宮廷文壇の如き修辞主義的な部分を毀棄していったことによって獲得されたものであることを明らかにできたと思われる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当該年度は王績の隠遁観に焦点を当てた。王績については既に複数本の論文を執筆していたが、当該年度に至ってその最終的な隠遁観を明らかにすることができた。宮廷詩壇の外側にあった王績を対象としたことは、初唐の文学趨勢を究明する上で一定の成果があったと言える。 当該年度は新型コロナウイルスの影響で所属学会での研究発表機会が失われ、進捗状況にも遅れが発生した為、初唐四傑の文学観の考察を発表することが叶わなかった。しかし当該年度より駱賓王の「獄中詠蝉詩」「蛍火賦」の考察を進めており、2021年度には口頭発表できる段階にある。
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Strategy for Future Research Activity |
前述の通り、駱賓王をはじめとする初唐四傑達の諸作品に即して彼等の文学観を明らかにしていく。本研究は、宮廷社会に強い関心を持っていた初唐期の文人たちが、それとの関わりを絶たれた際に拠り所とした文学を研究対象として取り上げることで、彼等と宮廷詩壇との関係性を浮き彫りにすることを骨子としている。 初唐四傑の駱賓王も、武則天に対して頻りに諷諫した為に獄に下されており、そこには明らかに宮廷社会に対する激しい絶望がある。彼が獄中で製作したのは「獄中詠蝉詩」「蛍火賦」であり、そこに六朝詠物詩賦の如く蝉や螢という対象物を煌びやかに描き出そうという意識はなく、ここに彼の宮廷文壇否定の視座が見いだせると考えている。 また本研究の中心的課題である、中唐の権徳輿「玉臺體」の訳注作業も同時に推進し、発表する予定である。 最終年度故に、初唐四傑の文学観が、陳子昂・廬蔵用・元結・韓愈等の所謂古文家のそれに如何に影響を与えたかを検討することを通じ、大きな枠組みで初唐文学を捉えたい。
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Causes of Carryover |
当該年度前半は新型コロナウィルスの影響で在宅勤務となり、予算執行並びに研究推進に遅れが生じた。また所属学会の大会・例会等が全て中止、若しくはオンライン開催となり、当初予定していた旅費等の使用に至らず繰り越しが発生した。 翌年度は初唐文学のみならず元結・韓愈・権徳輿等を対象とするので、その書籍購入費に充てたい。また、新型コロナウィルスの感染状況によっては開催されるであろう所属学会で大会・例会参加の旅費としたい。
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Research Products
(1 results)