2022 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
19K13200
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Research Institution | Ochanomizu University |
Principal Investigator |
竹村 明日香 お茶の水女子大学, 基幹研究院, 准教授 (10712747)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 謡伝書 / 能 / 日本語音韻史 / 秘伝書 / 塵芥抄 / 発音 / 実鑑抄 / 四声 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、室町末期から江戸期にかけての謡伝書を網羅的に調査し、それらに日本語の発音に関するどのような記述が見られるかを検討した。 最終年度に得られた最も大きな成果は、日本語の四声に関する記述である。江戸期に最も流布した謡伝書の一つである『塵芥抄』とその系統に属する塵芥抄系謡伝書(『謡之秘書』等)では、3種の「トウ」の語アクセントで上声・平声・去声の音調を表している。すなわち、上声は「月次のトウ(頭)」で下降調を表し、平声は「人に物をトウ(問う)」で高平調を表し、去声は「弓に巻くトウ(藤)」で上昇調を表す。この、上声=下降調、平声=高平調、去声=上昇調という特異な四声は、契沖や本居宣長が『和字正濫鈔』や『漢字三音考』で用いていた四声の音調と一致することが判明した。これらの音調については従来、金田一春彦などのアクセント研究者らが検討してきたものの、どこから取り込んだものか、由来が不明とされてきた。しかしこれらは様々な外的徴証から、江戸期に流布した謡伝書の四声観を取り込んだものであることが明らかになった。江戸期において謡伝書は様々な発音知識を集積していたため、発音規範の拠り所として国学者らに利用されたものと考えられる。 上記以外にも複数の事象が明らかになった。謡伝書では、完了と打消の助動詞「ぬ」のアクセントが異なることを示すため、「見えぬ」「たえぬ」などの用例に胡麻章を附して説明をする条文が見られる。検証の結果、これらは当時のアクセントを忠実に反映していることが明らかになった。また『謡鏡』では濁音前鼻音について言及する記述が見られたり、『金春流詠口伝集 宗因袖下』では、いろは歌といろはを語頭にもつ複数の語に胡麻章を振って、近世アクセントを示している例が見られる。 以上のように、四つ仮名や開合以外にも多数の発音現象に関する言及が謡伝書に見られることが明らかになった。
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Research Products
(1 results)