2020 Fiscal Year Research-status Report
メンタル・スペース理論による日常言語に潜む提喩性の解明
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19K13205
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Research Institution | Kindai University |
Principal Investigator |
大田垣 仁 近畿大学, 文芸学部, 准教授 (60732360)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 提喩 / 隠喩 / 換喩 / N1のN2型名詞句 |
Outline of Annual Research Achievements |
提喩は名詞(句)や文または文に近い単位に生じる比喩の一種であり、言語形式が本来表す意味や指示対象の範囲に伸縮作用が生じる現象である。伸縮は言語単位ごとに類型がある。名詞(句)に生じるものは、上位概念を表す形式で下位概念を意味するものと、下位概念を表す形式で上位概念を意味するものがある。文または文に近い単位に生じるものは、「煮え湯をのませる」のような極端な事例から一般的な意味を示唆する諺が典型例である。 このような提喩現象に対して本研究では次の5つの課題を設定した。(1)カテゴリーの飛躍および、差異的特徴と提喩性。(2)「N1のN2」型名詞句における、提喩と隠喩との相違。(3)集合関係を超えて生じる提喩的認識。(4)キャラクター概念を生じさせる動機付けとしての提喩。(5)換喩と提喩の間にある断続と連続。具体的には(1)(3)(5)では、メンタル・スペース理論の観点を用いて提喩現象と他の比喩との関わりを吟味し、基礎づける。(2)は「N1のN2」型名詞句に生じる比喩的な解釈に着目し、記述を行う。この形式の統語的な特性の細かな違いや、意味解釈における認知操作を解明する。(4)は上記の基礎づけをもとに、フィクション作品に現れる発話を網羅的に観察し、未発見の提喩属性を記述し、他の比喩によるキャラクター属性との比較を行う。 2020年度は2019年度に引き続き課題(2)について分析をすすめ、論文にまとめた(「比喩が介在した“N1のN2”型名詞句について」『語文』(115)2020年、大阪大学国語国文学会)。2019年の段階でまとめきれなかった記述や分析を進め、この形式に生じる隠喩・提喩・換喩の類型と特性について分析し、メンタル・スペース理論による定式化、モデル化を完了させた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2020年度は、2019年度に記述・分析・論文の執筆を完了する予定だったが進捗が遅れていた「N1のN2型名詞句」に生じる比喩の研究を完成させる必要があった。進捗が遅れた理由としては、「N1のN2型」名詞句に生じる比喩の記述に想定していた以上の時間がかかり、1年では取りこぼしのないかたちでこの形式の記述を終えることができなかったためである(N2に置かれる名詞に生じる比喩として隠喩・提喩・換喩という3種類の比喩があり、N1にくる名詞の意味特性によってさらに類型が枝分かれしていった)。その一方で、2019年度の終わりごろから、新型コロナウイルス感染症が拡大していった影響で大学に通うことが困難になったために、予算の円滑な執行も滞り、2019年度までに収集した資料やデータをもとにした在宅での研究スタイルをとらざるを得なくなった(ただし、オンラインのコーパスを用いることで在宅でもデータについては補完することができた)。さらに、オンライン授業やオンライン学会・研究会を行う必要や家庭の事情で時間を定期的に奪われることが発生し、なし崩し的に研究にさく時間も奪われた。 このような状況下において、「N1のN2型名詞句」に生じる比喩の研究については、当初、隠喩と提喩および換喩にかかわる記述的なものにとどめるつもりであったが、先行研究を吟味するうちに、主要部についての統語的な取り扱いの問題や、隠喩がもつ特殊性の壁が生じ、現象を統一的に説明することに時間を要し、12月になってようやく論文を発表することができた(「比喩が介在した“N1のN2”型名詞句について」『語文』(115)2020年、大阪大学国語国文学会)。
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Strategy for Future Research Activity |
新型コロナ感染症の流行に伴う移動制限が要因となった研究の遅れを取り戻すべく、2021年度は課題の(1)(3)(5)を統合した形で、名詞句に生じる「提喩性とは何か」について検討する。これまでに指摘されてきた提喩の成立メカニズムを把握したうえで、日常言語として使用されているが、これまであまり気付かれていなかった言語現象に生じる提喩的側面や性質についても射程にいれることで、提喩の基礎づけにおける集合概念や関数的な考え方と認知的な考え方の対立を止揚するモデルを提案したい。 具体的には、種差概念が臨時的に類概念化する現象や、下位概念で上位概念を「代表する」ということの内実を吟味する。特に、後者については、これまでの認知言語学においてプロトタイプカテゴリーや認知的際立ち概念、イメージスキーマによる表示によって説明されてきたが、集合論と関数の側面から再検討することで、安易な図式化(i.e. プロトタイプカテゴリーとなっている下位カテゴリーを強調した円周図から、上位カテゴリーの円周図に向かって矢印を示す)とは異なる新たなとらえ方を提案したい。また、ニコラ・リュウェによる提喩批判や、グループμが提唱した「提喩二重隠喩説」を再検討することで、換喩と隠喩とのあいだでゆれうごく、提喩性の基礎づけ行いたい。分析の道具立てとして、ジル・フォコニエが提唱したメンタル・スペース理論を導入することで、既存の理論では説明できなかったり、複雑でアドホックな説明に陥ったりしていた問題について、形式的説明と認知的説明を無理なく統合した定式化、モデル化を試みる。以上のような分析を行うことによって、提喩性の正体を明らかにする。さらに、提喩性に由来する修辞的効果にも着目し、カテゴリーベースのモデルに語用論的観点を組み込むことによって、提喩による修辞的効果の発現条件が説明できることを示す。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染症による移動制限により、科研費の執行を行うことが滞った。繰り越した助成金については、今年度購入予定で未購入となった書籍、物品のリストをもとに、書籍や物品の購入にあてる予定である。
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Research Products
(1 results)