2019 Fiscal Year Research-status Report
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19K13244
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
李 址遠 早稲田大学, 日本語教育研究センター, その他(招聘研究員) (30802128)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 第二言語習得 / 談話分析 / 言語と思考 / 言語相対性 / ナラティブ |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、関連先行研究の検討と調査の準備および実施を並行して行った。 【先行研究の検討】本研究に関連する諸分野のうち、主に言語相対性をめぐる言語学、第二言語習得論、言語人類学などにおける議論とその展開を中心に検討を行った。ウォーフに端を発した言語と思考に関する議論が、主に言語構造(語彙や文法カテゴリーなど)と認知構造の間の相関関係(=構造的言語相対性)を検証するという心理学的枠組みにおける実験的な研究として展開していき、その流れが近年の第二言語習得研究にも受け継がれていること、そして、複数の研究において、第二言語の学習が個人の思考に変化をもたらす可能性が示唆されていることを確認することができた。しかし、その一方で、本研究が探求しようとする言語学習と自己・他者・世界への認識の変容という問題に焦点化した研究は見当たらず、人々の自分および他者に関する語りそれ自体を分析対象とするナラティブ研究などへの検討が必要となることが示唆された。 【調査】日本の大学に留学している大学生5名を対象にした継続的インタビュー調査を実施中である。調査協力者のうち、3名は日本の大学に所属している学部留学生であり、調査開始時点における日本滞在期間は約3年、日本語のレベルは中級程度である。残りの2名は大学の日本語センターに所属する留学生であり、調査開始の時点における日本滞在期間は約6ヶ月、日本語レベルは初級である。5名に対しては計11回のインタビューを実施している。これらの調査協力者たちは現在日本語学習の途上にいるだけでなく、いずれも人生の岐路に立っており、彼/彼女らに対する調査は分析に値する意味のあるデータをもたらすと期待できる。ただし、現段階では言語面および認識面の変容を見るための十分なデータは蓄積されておらず、今後さらなる調査が求められる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究の遂行にやや遅れが生じているのは、当初2019年8月に予定していた調査の開始が2020年1月にずれ込んだことによる。調査の開始が遅れた理由は、調査協力者の募集が予想以上に困難だったことにある。 本研究における調査対象者は、①日本に長期的に滞在する予定であること(少なくとも1年半以上)、②日本語学習の途上にいること(初級または中級)、という条件を満たす必要がある。そして、研究開始の時点では、③出身や職業、生活環境などの多様性を考慮して協力者を募集することを目指していたため、募集が容易ではなかった。 募集に際しては、都内の区役所の多文化共生部署や外国人支援センター、地域日本語教育のサークルなどに訪れ、関係者への調査の趣旨説明と、協力の依頼を行ったが、調査対象者を見つけるには至らなかった。そうした中、都内のとあるアジア系外国人コミュニティーのリーダーと繋がり、来日したばかりの定住予定者一人を紹介してもらうことができたが、1回目の調査を行った後、連絡が途絶えてしまった。 これらの経験により、本研究が計画している長期的・継続的な調査を行うためには、調査者と調査協力者の間のラポールや信頼関係が必要であることに気づき、当初の計画をそのまま実行することは困難であるという判断に至った。そのため、上記の条件③を諦め、研究者の周りから調査対象者を探すという方向転換を行うことにより、上記の5名に対する調査を開始することができた。 当初の計画より調査の開始がやや遅れていることは事実だが、上記の5名に対しては、当初計画していた2年間という長期的な調査を研究期間内に行うことができ、また、調査の頻度を増やすことで、分析のためのデータの量も確保できると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
【研究計画】 本研究課題の2年目となる2020年度には、現在行っている調査を継続し、データを収集していくことが最も重要な課題となる。下半期には、分析を開始できる程度のデータが確保できると予想されるため、調査と分析を並行して進めていく予定である。一方、先行研究に関しては、心理学や社会学におけるナラティブ研究を中心に検討を続けていく予定である。 【予想される課題:調査の継続可能性について】 調査中の5名の協力者のうち、現在1人と連絡が取れていない。今後さらに長期に亘る調査が必要であることを考えると、他の4名についても、途中で調査が中断されるケースが生じる可能性は否定できない。そのため、調査協力者を増やし、1年間程度のインタビュー調査を行うことを考えているが、新型コロナウイルスの影響により、調査協力者を新たに募集するのが困難な状況である。当分の間、現在遂行中の調査もオンライン上で行わざるを得ないが、オンライン上での協力者募集という方法も念頭に入れながら、安定的に調査を遂行できるようにするための方法を探っていきたい。
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Causes of Carryover |
調査開始が予定より遅れたことにより、人件費・謝礼の支出が予定より少なくなった。2020年度は調査の回数を増やす予定であるため、次年度使用額6,165円は、人件費・謝礼として使用する計画である。
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