2022 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
19K13244
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Research Institution | Osaka Kyoiku University |
Principal Investigator |
李 址遠 大阪教育大学, 教育学部, 准教授 (30802128)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | ナラティブ / クロノトポス / アイデンティティ / 移動 / コンテクスト |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、第二言語の学習が人々の自己、他者、世界の認識の仕方にいかに影響するかを明らかにすることを目的として始まったものである。当初の研究計画は、学習者の言語習得の状況を独立変数、語りに見られる変化を従属変数として捉え得るという仮説に基づくものであったが、収集したデータはこの仮説を支持するものではなかった。そのため、研究の方向性を見直し、縦断的な語りのデータならではの特性を活かした形での分析を試みた。その成果は次の通りである。 ①語りの実践を通したアイデンティティの呈示・構築の過程の解明 場所と移動に関する移民第二世の男性の語りを縦断的に分析することにより、相互行為的な語りの実践を通して語り手のアイデンティティが呈示・構築されていく有り様を明らかにした。語りにおける時間、空間、人が「多文化主義vs.単一文化主義」という対比において意味づけられ、その中で、多文化主義を擁護し実践する語り手のアイデンティティが創出的に指標されていく様子を具体的に記述することにより、人々が移動の経験を意味づけ、自己を形成する過程を適切に理解するための理論的・方法論的視点を提示した。 ②語りにおける経験の表象の生成過程の解明 同一の経験を題材にした母語と第二言語の語りの間に見られる内容上の違いに注目し、両者の相違をもたらす要因を探ることで、語りにおける表象が「今・ここ」に根差した語りの実践の中で生成されていく様子を明らかにした。語りを語り手の現実の忠実な反映とみなす主流のナラティブ分析(=内容分析)の前提から導かれる予想とは異なり、語りにおける表象が、語りがそのコンテクストを指標しながら組織化される過程の中で偶発的に生み出されることを示すことにより、ナラティブ研究における社会言語学的転回の必要性を示唆した。 一方、収集したデータの分析は現在も続いており、今後も随時研究成果を発表していく予定である。
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