2021 Fiscal Year Research-status Report
「話す」のに必要な項目はなにか?ー会話分析を用いた初級学習項目の見直しー
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19K13249
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Research Institution | Kwansei Gakuin University |
Principal Investigator |
山本 真理 関西学院大学, 日本語教育センター, 准教授 (00743212)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 日本語初級文法 / 聞き手反応 / はい / うん / わかる / なるほど / 会話分析 |
Outline of Annual Research Achievements |
収集したデータから、聞き手反応「うん」「うんうん」「はい」「はいはい」などの使い分けについて経験的に論じることを試み、論文にまとめた(論文は書籍に掲載を予定している。現在編者のコメント待ち)。分析においては、話し手が語りや説明など複数のターンをとって話す場面をとりあげ、話し手が聞き手の理解に志向した自己開始修復を行った際に、聞き手が際立った反応をすることを主張した。その上で、反応の際立ちには「うん」から「うんうん」、頷きから「うん」のような形式的な変化が利用されていることを論じた。また、自己開始修復が聞き手の理解に志向したものかどうかは、単に言語的な要素からだけではなく、話し手側の振る舞い(例えば聞き手への視線、身体的動作)などによって観察可能な形で提示される場合があることもわかった。 さらに、経験を語る場合の反応として用いられる「なるほど」「わかる」の使い分けについても、実際のデータをもとに論じた(張・山本・森本、2021)。当該発表では、こうした形式間の使い分けに気がつけることは会話分析の研究者だけではなく、日本語教師が身につけるべき知識であることも主張した。
以上、今回明らかにしたのは形式としては比較的単純かつ、初級レベルでも導入されるものである。しかし、やりとりにおける用いられ方の詳細はこれまで初級教科書では積極的に扱われてこなかった。それは形式としては初級レベルであっても、実際に用いることができるためには、高い言語能力を必要とするからである。したがって、これからは初級では聞き手反応のバリエーションという観点から、さまざまな表現が用いられることを紹介した上で、並列的には取り上げてこられなかった複数の形式を紹介をすべきである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
取り上げた項目は初級で紹介される形式であったが、実際の相互行為における使い方を観察すると適切な使用はそう容易ではないことがわかる。こうした知見も日本語教育全体においては重要である。その一方で、本研究課題である初級で扱うべき項目の洗い出しには至っていない。引き続き初級で導入される形式の実際の用いられ方を分析するとともに、実際に初級で導入すべき項目とはなにか、現在の指導項目が実際の使用と乖離している点はなにか、を具体的に探っていく必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
現在コレクションを引き続き収集している形式(「知っている」「知らない」「わかる」「わからない」)の分析をすすめる。加えて、疑問の形式に「ね」がついた「かね」の使用について実際のデータから分析を行うことを検討している。いずれも項目としては初級で扱われるものの、相互行為における用いられ方を詳細に観察することで、意味論的な記述では理解できなかった点を明らかにできるためである。 さらに、初対面会話における「自己紹介場面」を取り上げ、互いのことを知るためのやりとりがどう展開するのかを分析していく。自己紹介場面を取り上げるのは、多くの初級日本語教科書で扱われる項目である一方で、自己紹介は単なる名乗りではなくその後の会話の展開によって互いの関係性を構築する重要な場面でもあると考えられるからである。
上記の成果は論文化し、公開することによって文法積み上げ式の教科書だけではなく、初級会話を扱う教科書においても盛り込むべき項目や取り上げる際に注意が必要な項目が明らかになる。
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Causes of Carryover |
2021年度に予定していた国内外の学会への参加およびその旅費等の支出がなかったためである。 2022年度は国内の学会に参加するとともに、最終年度となる場合は初級会話に必要な項目について、研究者を招いて議論する場を設けたい。
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