2019 Fiscal Year Research-status Report
マグリブのアラブ化に伴う社会統合の再検討:初期イスラーム史構築に向けた比較分析
Project/Area Number |
19K13364
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
野口 舞子 東京大学, 東洋文化研究所, 特別研究員 (00834623)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | アラブ化 / ベルベル / マグリブ / アンダルス |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、アラビア語の史料分析をもとにマグリブ地域におけるアラブ化の過程とその地域間比較を行うことで、社会の変容と統合の過程を明らかにし、同地域の初期イスラーム史を構築することを目的とする。 本年度は、イブン・ハルドゥーン(1406年没)の史書『省察すべき実例の書』を用いた講読会を毎週開催し、マグリブに移住したアラブ諸部族や、マグリブ先住のベルベル諸部族について、各部族の系譜や来歴、居住地など様々な点について検討を行った。非常に著名な当該書については、複数の校訂本が出版されているが、なかでも信用に足るとされているがまだあまり流布していないチュニス版も用いて検討をおこなうことができ、各校訂本の特徴や異同を把握することができた。 他方で、当該地域で使用されていた言語の問題について、ムワッヒド朝(1130年-1269年)下では、説教(フトバ)がアラビア語とベルベル語の二言語で行われたという議論に関し、年代記、伝記集等の史料を用い、同地域の12世紀のフトバが行われた具体的な状況を検討した。さらに、説教師のデータを収集し、修学状況やキャリアパターンを分析し、フトバが行われた状況との突き合わせから、二言語が常に使用されたとは考えられず、時代や地域をより厳密に区分して再考が必要であると結論づけた。これらの成果については、10月に日本オリエント学会の年次大会で口頭報告を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
イブン・ハルドゥーンの『省察すべき実例の書』のテクスト分析はおおむね順調に進展している。加えて、有益な史資料を入手し、研究動向の把握を進めることが出来た。 他方で、アラブ諸部族のマグリブ地域への移住状況やベルベル諸部族の分布状況を地図情報に落とし込む作業は十分進んでいない。今後は、他の年代記や地理書などの記述との比較検討も加えて、これらの作業を行っていく。 また、本年度はチュニジア、モロッコ、アルジェリアの首都圏において、文献調査と意見交換を目的とする海外渡航を予定していたが、実施することができなかった。とりわけ、アルジェリア地域のアラブ化の様相や時代・地域の特徴を把握することは本研究の中心課題の一つであるため、これらは今後行うこととする。他方で、今後も海外渡航の機会や日数が減少することも予想されるため、海外の研究者と連絡を取り、彼らを日本に招聘して勉強会や研究会を開催することで、本研究を進めることも検討していきたい。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、今年度実施することができなかったアルジェリアやチュジニアでの現地調査を行う。また、日本においてもアルジェリア史やチュジニア史の研究者とディスカッションを行い、本研究の分析手法を再検討したり、議論の展開に援用したりしたい。 文献史料の検討については、今年度蓄積したテクスト分析の成果としてアラブ諸部族がマグリブの諸王朝に及ぼした影響について学会で報告するとともに、さらに史資料の分析を進める。
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Causes of Carryover |
予定していた海外調査を行うことができなかったため。また、本研究を中断したため。今年度行うことができなかった海外調査は次年度行うこととする。
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