2020 Fiscal Year Research-status Report
水の滞留時間に着目した高山域の雪氷融解に伴う水資源涵養過程の解明
Project/Area Number |
19K13433
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Research Institution | Shinshu University |
Principal Investigator |
榊原 厚一 信州大学, 学術研究院理学系, 助教 (40821799)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 高山帯 / 水資源涵養 / 水貯留 / 植生 / トレーサー |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は,高山帯の水資源涵養機構を解明することを目的に実施している.2020年度は,2019年度に引き続き,中部山岳国立公園・乗鞍岳の標高2600~3026 mの山頂源流域にて水文観測と水試料の採取を実施した.ただし,降雪・積雪等の気象条件の関係で,乗鞍岳開山期間の7月~10月にのみ現地調査を実施した.採取した水試料は,主要無機溶存イオン濃度と酸素・水素安定同位体比を分析した.その結果,次の重要な知見が得られた. 乗鞍岳高山帯を土地被覆により,植生がある部分と裸地部に分類し考察をした.裸地部の渓流水・湧水は,植生部と比較をして,降水試料が示すような低いpHと低い電気伝導度を示した.また,水質は裸地部と比較をし,植生部ではカルシウムイオンや重炭酸イオン等の地質由来の成分が多い傾向にあった.さらに,酸素・水素安定同位体比では,裸地部の渓流水・湧水は,時間差はあるものの,降水の同位体比の時間変化に沿うような時間変化傾向を示した.一方,植生部の渓流水・湧水の同位体比は明瞭な時間変化は見られなかった.すべてのトレーサー情報から,裸地部と植生部の水の保水機能に違いがあると示唆された.すなわち,裸地部では,透水性の低い基盤岩が露出していることにより,もたらされた水(融雪水や降水)が迅速に下流方向へ流下することが特徴であり,植生部では,薄いものの多孔質な土壌が形成されており,低標高地域の森林と同様に水を一時的に保水する機能が存在すると考えられた. 本情報は,降水量が平地と比べ極めて多く,気候変動の影響を受けやすい高山帯の水資源涵養過程を解明するための重要な情報となりうるため,次年度以降さらなる解析を進める.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
国立公園内における入林許可や工作物設置許可に基づき,水文観測データの取得と水試料の採取を実施したことから,本研究の最大の目的である高山帯の水資源涵養機能の解明へ向けた,基礎データの蓄積を飛躍的に進めることができたと考えることができる.特に,高山帯研究対象地域を土地被覆条件により,裸地部と植生部に分け,水文化学特性の違いとその要因を考察できたことは,非常に重要な成果であると考えられる.ただし,土地被覆条件による水資源涵養機能と水流出の関係について,データはあるものの,考察が進んでいない状況である.この点は,次年度の課題としたい.以上のことから,「おおむね順調に進展している」と判断した.
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Strategy for Future Research Activity |
乗鞍岳高山帯の開山期間中に継続的な水文観測と水試料の採取を実施し,さらに観測データを蓄積する.また,2020年度示唆できた,土地被覆条件による水保水機能の違いについて,水流出過程との関連性を検討することで,考察を深める.2019年度,2020年度の流出量データは,裸地部流域でしか観測を実施していなかったため,2021年度は裸地部流域と植生部流域の両者で実施する.そのことによって,降雨が生じたときの,裸地部流域と植生部流域の流出過程の違いを検討する. 2021年度は研究最終年度であるため,3年間のデータを総合的に解釈することで,高山帯の水資源涵養過程を概念的にモデル化し,研究成果とする.
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Causes of Carryover |
次年度の使用額が生じた要因は二つある.一つ目は,当初想定していた水試料の化学分析用の高額消耗品の交換(分析カラムやその他部品等)を実施しなかったことである.2021年度に採取する予定の水試料の分析には,当該消耗品の交換が必須であるため,その購入費用に支出する.二つ目は,国際学会における研究発表が,新型コロナウイルス感染症の影響により,実施できなかったことである.今年度後半の国際学会発表の旅費・投稿費に充てる.感染症の状況が改善しなかった場合,オンライン学会発表費や論文投稿費(オープンアクセス)として,支出する計画である.
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