2021 Fiscal Year Research-status Report
情報取得捜査を中心とする捜査立法の基本思想と立法技術に関する研究
Project/Area Number |
19K13547
|
Research Institution | Ryukoku University |
Principal Investigator |
斎藤 司 龍谷大学, 法学部, 教授 (20432784)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
|
Keywords | 規律密度 / 強制処分法定主義 / 法律留保の原則 / 裁判官留保 / 立法技術 / 令状主義 |
Outline of Annual Research Achievements |
日本では、近年、、本来、詳細な法的規律を必要としない任意処分についても、一定の場合には詳細な要件や手続を法的にコントロールする必要があるという論理が注目されている。このような論理は、電脳空間への捜査や技術的手段を用いた捜査が進展する状況に鑑みれば重要な意味を有する。他方で、この論理においては、任意処分に対する法的規律の根拠づけ、具体的な要件や手続の設定方法、強制処分法定主義とこれを基にする法的規律方法との異同などをどのように理解するかが重要となる。 このような問題状況の解決に資すると思われるのが、ドイツにおける法的規律の分析である。ドイツでは、権利侵害性が認められる、権限濫用の危険性が高いなど、捜査機関の裁量に委ねるべきではない捜査については、立法府の熟議を経た立法によって規律すべきとされる。そして、被侵害権利の重要性、権限濫用の危険性に応じて要件や手続の規律密度を上げ下げすべきとされていることが明らかとなっている。 今年度、明らかとなったのが、その規律密度の上げ下げする手続面の各要素である。ドイツでは、一定以上の規律密度を要する捜査処分については、捜査機関の裁量に委ねるのではなく、一定の立場にある者の命令を要するとされている。具体的には、①裁判官の命令があった場合にのみ許容される類型、②裁判官の命令に加え、緊急の場合における検察官の命令があったのみに許容されるが、後者の場合には、裁判官の事後承認を必要とする類型、③②の類型で裁判官による事後承認を必要としない類型、④③の類型について、検察官だけでなく、一定の地位上の警察官の命令も認める類型、が想定されている。 また、ドイツでは対象者への事前告知を要しない秘密捜査と事前告知等を要する通常の捜査とを区別し、前者については事後的な手続が必要とされていることも明らかとなった。このように規律密度の構成要素が本年では明らかとなった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2021年度は、ドイツにおける規律密度論の基本思想を明らかにするだけでなく、ドイツに赴き主要な研究者や立法担当者にインタビュー調査等を行う予定であった。もっとも、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、2021年度も、当該調査は断念せざるを得なかった。 このような状況に鑑み、2021年度は、2020年度の成果も踏まえ、ドイツにおける規律密度論の基本思想を明らかにすべく、ドイツにおける注釈書や理論書といった文献をベースとする調査を行った。また、他の日本人のドイツ刑訴法研究者との共同研究体制のもと、ドイツ捜査法の具体的内容、関連判例、通説の徹底的な整理・分析も継続的に行っている。さらに、ドイツ法の正確な理解のためには、行政法・国際法、さらにインターネット・サイバー空間に関する法領域との協同が必要であるところ、2021年度も2020年度から引き続き、複数の研究会などで共同報告や議論を行うなど、一定の成果を得ることができている。 他方で、上記の通り、ドイツ人の研究者や立法担当者に対するインタビューを十分に行うことができなかった。また、ドイツにおける規律密度を決定する理論的根拠についても十分明らかにできなかった。これらの点については、2021年度の計画・進捗との関係では十分ではなかったと考えている。
|
Strategy for Future Research Activity |
2022年度の研究を推進するにあたっては、まず、ドイツにおける捜査法を支える基本思想をより一層明らかにするとともに、これと関連付けながら、ドイツに対する捜査の規律密度を構成する各要素を明らかにし、さらにこれらを使い分ける論理を明らかにする必要がある。もっとも、文献調査においては、これらの点を十分に明らかにできなかった。そのため、ドイツ人研究者や立法担当者への直接のインタビュー調査は非常に重要かつ必要である。オンラインによるインタビューも含めて、インタビュー調査実施の可能性を徹底的に追及する。 次に、ドイツの知見も踏まえながら、日本における刑事手続立法の基本思想もさらに明らかにする必要がある。通信傍受関連の規定の立法、電磁的記録に対する捜査手段に関する規定の立法、2016年刑訴法改正など近年の捜査法改正について前提とされた立法担当者等へのインタビューは2021年度、実現しなかったので、2022年度に実施することとする。 以上の成果も踏まえ、2022年度後半には、成果報告として、刑事訴訟法関係の研究会だけでなく、行政法・国際法・サイバー法など複数の法領域の専門家との学際的な研究会でも報告する予定である。そして、そこでの成果を踏まえ、刊行物としての公表を進める。
|
Causes of Carryover |
ドイツにおけるインタビュー調査のため往復旅費等を確保していたところ、新型コロナウイルスの感染拡大のため渡独が不可能となったため、当該費用を執行できなかったことから生じたものである。 今年度は、可能な限り、ドイツにおけるインタビューを実施、当該費用を執行する。
|