2019 Fiscal Year Research-status Report
Historical research on endogenous institutional change
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19K13784
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
酒井 健 東北大学, 経済学研究科, 准教授 (60757061)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 歴史的組織研究 / パワー / 歴史的合流 / 制度の内生的変化 / 専門職 / 行為主体性 / 働き方改革 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は,日本の看護師の歴史的事例研究を通じて,ある業界の因習的な力関係や労働慣行が内生的に変化するダイナミズムを深く理解することを目的としている.既存理論では,豊富な資源を使用できるパワフルな主体がその種の内生的変化を推進するという議論が多く,相対的に弱い主体がどのように変化に関与していくのかという問題は十分には明らかにされていない.これに対して本研究は,看護師の行為とそれが展開された歴史的文脈を丹念に追うことで,この理論的ギャップを埋めることに貢献しようとするものである.それというのも,日本の看護師は長い間医師に従属する地位にあり業務内容も医師の補助が中心だったが,特に1990年代以降になると社会的地位を向上させつつ業務内容も看護本来の業務中心へと大きく変化させてきたためである.この研究の成果は,わが国で求められている「働き方改革」に対して実践的示唆を提供することが期待できる.本研究期間では①まず研究の理論的基盤である制度派組織論・歴史的組織研究の関連文献を幅広くレビューし,②明治期から現在に至るまでの看護の働き方や社会的地位を示す史料を収集して分析を進めた.③さらに期間中,看護師や他の医療従事者等10名にインタビュー調査を行い,そのデータ分析を進めた.④研究の中間成果を2019年7月にエジンバラ大学で開催された欧州組織学会(EGOS)においてフルペーパー形式で発表し,有力な研究者達から有益なフィードバックを得た.そのフィードバックとその後の調査・発表に基づき,看護師の主体的行為の結果と,看護師を取り巻く様々なアクターの行為の結果が結びついて漸進的に変化が生じる「歴史的合流」という分析視角をクリアにすることができた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2019年度前半には関連する理論的文献の収集と読み込み,および事例のデータ収集・分析を集中的に進めることができた.その初期成果を6月に一橋大学イノベーション研究センター主催のセミナーで発表し,7月前半にその修正版を欧州組織学会で発表して有益なフィードバックを得た.7月後半には,その改善版を東北大学の研究会で発表した.さらに8月に経営史学会関西部会大会では本研究の方法論について発表し,11月には経済史経営史研究会(第28回経営史学会東北ワークショップ共催)でも研究成果を部分的に発表した.12月には一橋大学国内交流セミナーで講演する機会をいただき,本研究の中間成果を詳細に発表した.これらの発表機会を通じて議論の整理が進み,論文の完成度が高まった.またその過程で国内の他大学の研究者と議論をした結果,本研究に関する追加的論文を切り出せる可能性が見えてきた.その論文の概要は2020年7月開催の欧州組織学会(オンライン開催)に応募してアクセプトされた.その一方,3月以降にコロナウィルスへの対応で当初予定していた研究時間の維持が困難になっていること等により,十分に読み込めていない関連文献があり,その点を課題と位置付けている.しかし全体的に見れば,ここまで概ね順調に推移してきていると思われる.
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Strategy for Future Research Activity |
2019年7月の欧州組織学会で発表した論文の改善がおおむね順調に進んでおり,これをパブリッシュすることを最重要目標にして取り組んでいく.なおこの論文に関しては目下欧州の組織論研究者たちとオンラインでやり取りをしながら修正を進めており,質の良い意見交換ができていることから,当面この取り組みを継続していくつもりである.また既述の通り本研究に関する論文をもう一本切り出せる可能性が浮上しており,2020年の欧州組織学会(オンライン開催)にアクセプトされている.そのフルペーパーの締め切りは2020年6月であり,これについても良質なフィードバックを得られるように準備を進めていく.ただしコロナウィルスの影響でインタビュー調査や図書館での文献調査等が困難な情勢であることから,オンラインで入手できる理論文献の読み込み,これまで収集したデータの再分析,さらには他の研究者とのオンラインでの意見交換を通じて可能な限り改善を進める予定である.
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Causes of Carryover |
2019年秋頃,当初予定していなかった海外学会(2020年3月・ギリシャ)で本研究の中間成果発表をする可能性が浮上したことから,一部の洋書・機器の購入および調査出張の先送り,アルバイトを雇わず自分でデータの打込み・分析をする等の工夫により,その出張費用を捻出しようとしていた.しかし2020年7月の欧州組織学会への参加が決まり,それに注力することに決めたため,3月の海外学会参加は中止した(なお結局その学会自体コロナウィルスの影響で中止になった).そのことが差額が生じた主な理由である.今後,購入を先送りした洋書等に加えて,目下の論文修正過程で新たに必要になった文献の購入費用に充てていきたいと考えている.またコロナウィルスの影響でオンラインでの研究活動が通常になっており,研究効率の維持に必要と考えられるものに関しては,IT機器を追加購入することも検討している.
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Research Products
(6 results)