2019 Fiscal Year Research-status Report
流動化・多様化する社会における協力のメカニズムの理論的・実証的解明
Project/Area Number |
19K13888
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Research Institution | Aoyama Gakuin University |
Principal Investigator |
大林 真也 青山学院大学, 社会情報学部, 准教授 (10791767)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 協力行動 / 公共財 / 社会関係 / 実験 / 数理モデル |
Outline of Annual Research Achievements |
現代社会では、人々の移動やコミュニケーションが容易になり、多様な人々が頻繁に交流するようになった。それに伴い、人間関係も多様で流動的なものとなっている。この高い多様性と流動性は、社会を豊かにするという良い一面も持っているが、相互協力を達成するうえでは難しさも孕んでいる。本研究の目的は、こうした高い多様性と流動性を持った社会関係において、いかなる条件の下で人々が協力し合うことができるのか、ということを経験的かつ理論的に解明することにある。 今年度は、労働組合と携帯電話会社のコミュニティサイトの行動データの分析を行い、効力行動に影響を与える要因を整理した。前者については、パネルデータ分析と推定モデルを用いた反実仮想シミュレーションにより、社会関係や情報のやりとりが協力行動に重要な影響を及ぼすことがわかった。後者に関しては、まずコミュニティサイトに3つある掲示板のうち1つを分析した。具体的には、公共財の供給に関するコメントを、word2vecやクラスター分析などの自然言語処理によって分類し、自己利益追求型・互恵性型・公共財供給型・その他の4つに分類できることがわかった。その他の類型(意識・規範の表明を行なっていない人)に比べて、3つの類型の人々は、より公共財の供給について協力的に振舞うことがわかった。併せて行動データを用いてシミュレーションを行い、前提としてどの程度の人々がどの程度、貢献を行えば公共財が維持されるかを分析した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
労働組合のデータ分析はメインの分析がほとんど完了し、おおむね計画以上に順調に進んだ。また、推定したモデルを用いた反実仮想シミュレーションに関しても順調に遂行することができた。その結果、来年度以降の研究に寄与する重要な知見を獲得することができた。 一方で、携帯電話会社のデータ分析に関しては、当初の計画よりも時間がかかっている。理由はデータが非常に大きく(300万件程度)、データ構造やデータの特徴の把握が難しいこととテキストデータの辞書作りが非常に膨大な時間を要するためである。そのため、本年度は3つの掲示板のうち1つのみを対象とし、辞書作りやデータの特徴把握に努め、データ分析ができるようになった。その結果、公共財供給に関する意識や規範は人々の間で異なり、さらにそれが協力行動と関連しているということがわかった。しかし、残りの2つの掲示板に関してはほとんどが手が付けられずに残ってしまった。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の方策としては、まず、今年度扱うことができなかった2つの掲示板のデータ分析に取り組むことがあげられる。今年度に扱った掲示板はtwitterのような短文でコメントを好きに投稿するものだったが、残った二つは議論を行うタイプのものであるため、より明確に人々の意識が現れるとともに、人々の会話ネットワークを分析することを通じて意見分布の動態を把握することができる。このデータ分析は、今年度行なった一つの掲示板のデータ分析や労働組合のデータ分析により得られた社会関係に関する知見や分析手法を応用することでスムーズに行うことが期待される。 次に、データ分析の結果、得られた知見を元に、社会関係・意識・協力行動の関係について、数理モデルによる分析を行い、理論的な一般性のある知見を得ることを目指す。 さらに、モデルによる理論分析を元に、その知見を経験的に検証するために、デジタル実験やオンラインサーベイを行う。
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Causes of Carryover |
本年度は、新型コロナウィルスの流行により、年度末に予定されていた出張を伴う研究会が急遽中止になり、その分、今年度の旅費が余った。次年度も、旅費が少なくなることが予想されるが、その代わりに、オンライン実験やオンラインサーベイなど、調査や実験を充実させるための費用として用いる予定である。
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