2019 Fiscal Year Research-status Report
教育実践における自律性と科学性の関係に関する教育思想史的研究
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19K14079
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Research Institution | Osaka Aoyama University |
Principal Investigator |
田岡 昌大 大阪青山大学, 健康科学部, 講師(移行) (90804758)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 城戸幡太郎 / 教育科学 / 戦後教育学 / ヒューマニズム / 教育実践 |
Outline of Annual Research Achievements |
初年度は、城戸幡太郎の思想研究に必要とする関連資料の収集と検討を中心に行った。その際、特に城戸の教育心理学の思想と、晩年の教育課程の自主編成運動を中心として検討を行った。この背景には心理学を含む科学と教育実践の関係を含みこんだ教育思想への展開があり、城戸はそれを「心理学の存在命題」として表現している。そして、晩年にはこうした思想を踏まえながら、教育課程の自主編成運動へと展開させていた。本研究では、この両者の関係を中心に検討することによって、城戸が教育科学の思想の中に教育実践とその主体性をどのように組み入れいたのかを検討した。その際、「生活主義と科学主義」という意味での1920年代から1930年代と、晩年(1970年代)との一貫性と断絶に注目をして、その特質を明らかにした。 この成果は、教育思想史学会にて発表し、現在、別媒体での発表に向けて論文として準備している状況にある。 また、城戸の思想の特質をより際立たせるために、特に幼児教育論に着目しながら、倉橋惣三の思想との比較検討を行った。検討に際しては、「生活」概念を軸とした。検討の結果、両者には一定の相違が認められるものの、科学主義や近代主義に対する批判性が前提にある点で共通しており、客観的な意味での「生活」をそのまま指しているわけではないことが明らかになった。また、「生活」として表現されるのは子ども(学習者)の側だけでなく、教師(教育者)の側についても同様であり、それゆえに保育(教育)実践の相対的な自律性が確保されていることが認められた。 この成果は、心理科学研究会にて研究情報論文として投稿し、掲載が決定している所である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度の目的は、城戸幡太郎の教育心理学に関わる思想を中心に検討を進めることにあった。この点については、「心理学の存在命題」と晩年の自主編成運動との関係を検討することによって、「人間性開発の心理学」という戦後期の城戸の思想の概要を明らかにすることができた。また、この思想が1930年代から一定程度一貫していることと、その一方で戦後に新たに展開していることをより詳細に明らかにすることができた。いわば、城戸は1920年代から1930年代にかけて形成した問題意識を一貫しており、これを戦後期に集大成として結実させており、こうした動向を踏まえて城戸の教育科学思想を読み直す必要がある。そして、この観点で見直すと、教育科学という独特の教育思想の中に、教育実践と科学の関係というテーマが潜在していたことが、より明瞭になった。 また、幼児教育論の点での比較研究を並行することによって、他の思想との関係から城戸の思想の特異性を明らかにすることができたと共に、他の思想と共通する教育実践の論理を明らかにしえた。また、検討のもう一つの軸として「生活」概念が考えられることを明らかにした。「生活」は、科学的に人間の発達を明らかにするための概念というよりも、より広義の概念である。また、そこには一定の批判性が含意されている。それゆえ、この点から検討を進めることによって、教育実践という人間の営みと科学との関係を捉え直していく足がかりとなるという知見が得られた。 これらの研究の成果については、学会での研究発表や論文での発表を行えており、一定順調に進展していると評価できる。 しかしながら、その一方で、検討が城戸の資料が中心となってしまい、その周辺の学説や心理学史との関係という点では課題が残っており、次年度に計画的に発展させていく予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
初年度に十分に取り組めていない点として、城戸の心理学思想を他の心理学説との関係からの検討があげられる。この点は、倉橋惣三の保育思想との比較という形で一部行えているものの、心理学史の中に位置づけて検討するという作業は十分に行えていない。それゆえ、この心理学史との関係から城戸の思想を位置付けていくという検討作業を、まずは進めていきたい。 その際、心理学史との関係から検討を行うことを補助線としながら、昨年度の「生活」概念を具体的な対象として引き続き検討を行いたい。城戸に即していえば、「生活」概念は、「技術」概念と結びついて捉えなければならないだろう。それゆえ、この「生活」と「技術」という点が、城戸の心理学と教育思想(教育科学思想)の中にどのように特異に位置づいているのかを検討する。 また、戦後期の城戸の思想の特徴として「ヒューマニズム」があげられるが、これは当時の流行言説でもあったため、城戸の「ヒューマニズム」思想を戦後民主主義や戦後の教育学との関係から位置付けて検討を行う。その際に、具体的な比較対象を設定することが求められるが、まずは大きなマッピングとして、城戸の思想の位置を戦後教育思想史、戦後社会思想史という点から探っていきたい。
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