2021 Fiscal Year Annual Research Report
多文化共生の実現に向けた人間性形成に関する一考察―ヘルダーを手がかりに―
Project/Area Number |
19K14100
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Research Institution | The University of Nagano |
Principal Investigator |
寺川 直樹 長野県立大学, 健康発達学部, 講師 (50801990)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 多文化共生 / 道徳教育 / 自己(感情)移入 / 共感 / 人間性 / 個性 / ヘルダー |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、この2年間の研究成果をふまえながら、ヘルダーの人間性形成思想の多文化共生およびその実現に向けた道徳教育への応用可能性について検討した。 まず、①多文化共生を批判的に考察する先行研究を整理した。それをふまえて、②小・中学校『学習指導要領解説 特別の教科 道徳編』を中心に、現代日本の道徳教育において多文化共生がどのように位置づけられているのかを吟味した。その際、①においては、人間性と個性の「対立の一致」関係(寺川2020)や類比(想像力)をふまえた自己(感情)移入(寺川2021)といったヘルダーの思索が現代にも通ずることを明らかにした。また②については、現代の日本の道徳教育、さらにはそれを通じて多文化共生を実現するためには、自己(感情)移入がその鍵を握っていることを確認した。その上で、ヘルダーの自己(感情)移入論(寺川2021)によってその内容を基礎づけるとともに、その具体化および深化が可能であることを指摘した。 なお、本研究の補論として、ヘルダーの人間形成論を手がかりに以下の点を解明した。まずは、人間における共感の最高形式たる「知性に基づく共感」(共同知性)を人間は神的な普遍知性へと完成させることは不可能であるが、そこへと向けて自らの共感の形式を継続的に形成することが重要であることである。そして、それとともに想像力に基づく投射的共感、さらには感覚・感性に基づく同情との協働によってそれを補完することが肝要だということである。また、ヘルダーの共感(自己(感情)移入)論の対象が他者に留まらず、自然をもその視野に包摂していることをふまえ、自然への共感の可能性についても考究した。そしてその内容をもとに、道徳科の内容に関する視点D「主として生命や自然、崇高なものとの関わりに関すること」の取り扱いにおける方法論的基礎づけを試みた。
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