2019 Fiscal Year Research-status Report
保育絵本をめぐる社会関係の史的分析―1950年代~1960年代を中心に
Project/Area Number |
19K14162
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Research Institution | Osaka University of Comprehensive Children Education |
Principal Investigator |
井岡 瑞日 大阪総合保育大学, 児童保育学部, 講師 (20836449)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 保育絵本 / 社会関係 / 子ども観 / 教育観 / 絵本観 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、1970年代以降の「絵本ブーム」の胎動期にあたる1950年代~1960年代を中心に、当該時期に刊行された月刊の保育絵本の制作から受容に至る過程において、各段階にかかわった組織や人々が相互にどのような社会関係を取り結び、その中でどのような絵本観や子ども観を表しているかを総合的に明らかにすることである。このことにより、今日の絵本観やそこに集約される子ども観、教育観が形成される歴史的経緯について考察することを目指す。 初年度にあたる2019年度には、1946年に昭和出版(現在はひかりのくに)から創刊された保育絵本『ひかりのくに』及びその関連誌の一覧表を作成し、所蔵状況等について基礎調査を行った。並行して、「ひかりのくにおかあさん新聞」等の『ひかりのくに』の母親向け別冊付録の紙面構成や出版の形態、推定読者像等について整理を試みた。 また、1960年代における上記の母親向け別冊付録の内容分析を行った。その結果、これらの別冊付録からは、保育絵本の有する教育効果をいかに発揮させるかという視点から、有能な媒介者としての役割を母親に期待し、家庭での使用について指南していこうとする意図を読み取ることができた。このことは、幼稚園・保育所の増設を背景に幼児に対する教育熱が高まっていく中で、家庭教育が広く奨励された当時の状況と相関していると考えられる。一方、1960年代末にかけて、別冊付録の母親に対する教導的な性格は次第に薄れていく。要因として、媒介者としての役割を自認するようになった現実の母親がもはや教導の対象ではなくなりつつあったこと、読者層を母親に限定せず、保育者にまで拡大するようになったことが挙げられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2019年度は、当初の計画に基づいた史料調査及び分析を概ね順調に進めることができた。その成果の一端については、5月5日の日本保育学会第72回大会で口頭発表を行った。さらに発表内容について精査し、2020年度に向けて投稿準備を進めることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度における研究は大きく2つに分けて進めていく。 1つ目は、2019年度に行った、1960年代の『ひかりのくに』の母親向け別冊付録の分析結果を論文として学会誌に投稿することである。これにあたっては、すでに明らかとなった成果やそこに至る筋道を精査することに加え、他社の保育絵本との比較検討に基づき『ひかりのくに』の特性を明らかにすること、保育絵本が販売数を伸ばす背景に何があったのか、保育絵本以外の単行絵本が家庭においてどのように受容されていたのか等の時代背景について先行研究に依拠しつつ考察することが必要となる。 2つ目は、1950年代から1960年代にかけて、保育研究・実践の場で絵本がどのようにとらえられていたかを明らかにすることである。というのも、1つ目とかかわって、1960年代前半において優勢であった別冊付録の教導的性格が徐々に薄れていったことは、口演童話が主流であった幼稚園や保育所において徐々に絵本の位置づけが変容しつつあったことと関係していることが推測できるからである。具体的には、保育の専門誌『保育』や日本保育学会の年次大会における絵本研究の動向を調査し、そこにどのような絵本観及びその変化がみられるのかを分析する。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルスの感染拡大の影響から、2019年度末に予定していた研究会及び資料調査が中止となったためである。次年度使用額については、調査に行けなかったために必要が生じた資料貸借費・複写費に充てる予定である。
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