2019 Fiscal Year Research-status Report
Organizational factors to facilitate collaboration with high school and community
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19K14243
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Research Institution | Tottori University of Environmental Studies |
Principal Investigator |
川口 有美子 公立鳥取環境大学, 環境学部, 准教授 (40616900)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 高等学校 / 地域 / 市町村 / 協働 / 地域創生 / 高校魅力化 / 地方高校教育行政 / リーダーシップ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、高等学校と地域との協働を促進する組織的要因をリーダーシップの観点より明らかにし、両者の協働促進モデルの開発を試みるものである。今日では、公立高校の多くを占める都道府県立高校と地域(主として当該高校が所在する「市町村」とする)との協働が、コミュニティの活性化や地域創生の観点から強く要請されている。高校の設置者(県)の主導により、県立高校と地域との協働に先進的に取り組んできた島根県における取組の分析を通じ、「設置者(県)-市町村-高校」の協働を促進する多次元に及ぶ組織的要因をリーダーシップの観点より解明し、協働促進モデルの開発を試みることを目的としている。本年度は主に、島根県教育委員会と同県X市教育委員会を対象とした調査を実施した。本年度末には当該調査による考察結果について、研究会(大塚学校経営研究会月例研究会)にて報告を行った。 島根県においては、全国的にも先導的に取り組んできた高等学校と地域との協働を深化させるべく、「高校魅力化コンソーシアム構築」による「地域協働スクール構想」を掲げることとなり、県も市町村や高等学校への支援スキームを見直すなど、次なるステージに入っていた。しかしながら、地域(市町村レベル)の現状は、県立高校を所管しない市教委事務局内での「高校魅力化」の位置づけや首長部局のリーダーシップ(市政全体の中で高校教育も含めた教育行政のありよう)はいずれも模索状態であった。例えば、市教委に配置されているコーディネーターと称されるスタッフの属人的なリーダーシップに委ねられるかたちで、高等学校と地域との協働が展開されている実態が見受けられた。 地域創生の文脈に置かれた「高校魅力化」の当事者になってしまった高校の所在する市町村の置かれた現状には、これまでほとんど目が向けられてこなかったが、本研究において看過できない問題にアプローチすることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
島根県教育委員会と同県X市教育委員会へのインタビュー調査を実施し、高等学校と地域(市町村)との協働をめぐる最新の情報と課題・実態を把握することができた。県がデザインした「高校魅力化コンソーシアム構築」による「地域協働スクール構想」の実現には、県によるさまざまな支援も重要であるが、同時に、市町村サイドの体制構築が欠かせないことが明らかとなった。 市町村は県立高校を所管する義務を負っていない。しかし、多くの地域住民が高校教育の諸活動に参画したり、生徒が地域をフィールドにした学習等に取り組むことで高校教育が充実し、ひいては、当該地域の創生が図られるというストーリーに大きな異論は持たれない。しかしながら、市町村における市政全体の中において、県立高校との協働をどのように位置づけるのかや、教育委員会事務局内に県立高校との協働を担当する部署・担当者をどのように配置したらよいのかといったことには、多くの課題を抱えていた。例えば、X市では、市教委内に担当の係が2018年度は総務課付で、2019年度は学校教育課付で設けられ、コーディネーターと称される嘱託職員と社会教育主事が担当係を任されていた。当該係がいずれの課の所管であるのかについては、2020年度からはまた別の課への変更も予定されているとのことであった。県と比較しても当然小規模な行政機構にある市町村の中で、容易には確立できない行政スキームの問題をどのように克服していくのか追究する必要があるといえる。結局それは、教委事務局内、そして、市庁全体へと、自治体内の県立高校との協働をどのように意味づけるのか、何をめざすのかを共有していくことが求められるといえる。 当初の研究計画から若干の変更はあったものの、次なる課題も明確に設定できていることから、おおむね順調に研究は進展していると判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
研究2年目にあたる今年度は、島根県内の全市町村(19市町村)を対象に郵送による質問紙調査を実施したい。そこでは、当該自治体内(ないし近隣自治体内)にある県立高校との協働は、どのようなものとして取り組まれているのか、また、自治体内の体制はどのようなものか(施策としての位置づけ、担当部署・担当者の配置状況等)、県への要望等が明らかにできる調査票を設計し、早急に依頼・配布を行いたい。 そして、質問紙調査の結果から、高校と地域との協働が効果的に展開されていると思われる事例を複数抽出し、比較事例分析(主としてインタビュー調査)を実施する。併せて、島根県教委への継続インタビュー調査による最新の情報収集と、県外での関連事例についても訪問調査を実施し、島根県との比較検討を行いながら考察過程における一助としたい(訪問を伴う調査は、新型コロナ感染症の収束状況を見ながらになるため、一部実施できない可能性も想定している)。 管内の県立高校との協働を市町村が要請されたとき、さまざまなコンフリクトが生ずることが予想される。また、高校においても地元自治体の意思と設置者(県)からの指導行政を含む要請との間で同様のことが生ずる可能性もありうる。「設置者(県)-市町村-高校」の各アクターがどのようなリーダーシップを発揮すれば、そのコンフリクトの縮減が可能になるのかを明らかにしていきたい。 1年目の成果については早急に論文化し、今年度の成果については次年度の早い時期に学会発表を行いたい。
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Causes of Carryover |
物品調達が当初の計画よりも縮小かつ効率的にできたため、主要事例である島根県以外における調査実施のための旅費として充てる予定である。
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