2019 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
19K14247
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Research Institution | Tokyo Keizai University |
Principal Investigator |
寺田 佳孝 東京経済大学, 全学共通教育センター, 講師 (50705960)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 政治教育 / ドイツ / カリキュラム / 教授法 / 民主主義 / 貧困・格差 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、主に2点について、研究を進めた。 第1に、ドイツの政治教育の実践的側面である。具体的には、2019年6月、ドイツのデュイスブルク市のゲザムトシューレ、職業学校において、政治教育の授業観察を行った。その際、ゲザムトシューレの授業では、第13学年のクラスの社会科学科の2つの授業(1つは「貧困問題:貧困の定義や貧困と国際関係」。もう1つは「階級と社会階層:マルクスやガイスラー等の階級・階層の定義と現代社会における社会階層の変動について)、第11学年のクラスの社会科学科の授業(単元は「コマーシャリズムと広告:広告の持つ役割とその問題点」)、職業学校の授業では、難民を対象とした政治教育(民主主義のあり方について)を参与観察した。授業による差が大きく、一部の授業では日本で言われるドイツの政治教育の特徴(生徒の資料読解と発言を中心に授業が展開する)が見られたが、反面、授業方法および生徒のモチベーションにかなり問題のみられる授業もあった。 第2に、ドイツの政治教育のカリキュラム的側面である。具体的には、ドイツ・ノルトライン・ヴェストファーレン州の学校における政治教育のカリキュラムについて、その内容構造を分析した。その際、「民主主義」の単元、および「社会保障」に関する単元において、社会的不平等および貧困と生活の関係性について批判的に考察するためのカリキュラムが組まれていることが明らかになった。 第3に、ドイツの政治教育の教員に対し、その課題について聞き取り調査を実施した。具体的には、2019年6月、ギムナジウムおよびゲザムトシューレの教員・元教員に対し、現代ドイツの政治教育の特徴および課題についての聞き取り調査を実施した。多くの教員は、現代ドイツの政治教育あるいは教育の課題として、政治に対する無関心、格差の増大を指摘していた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度の当初の計画は、ドイツの政治教育における貧困問題のカリキュラムの分析のため、ドイツの学校における政治関連の授業実践の分析、政治教育に関わっている教員への聞き取り調査、そして同国における貧困・格差・社会的不平等に関する文献の検討を実施する予定であった。このうち、前の2つについては、不十分ながらも政治教育における貧困問題の扱い(ゲザムトシューレの第13学年を対象とした「社会科学科」の授業)と、それに対する教員の問題関心について、授業観察およびインタビューを通じて、確認することができた(2019年6月のドイツ訪問時に実施)。他方で、新型コロナウイルスのために予定していた2020年3月のドイツの学校訪問(ギムナジウムおよび学力困難校における政治教育の実践について観察する予定であった)を取り消したことにより、そこでの政治教育の授業観察および教員や関係者への聞き取り調査が実施できなかった。 そして貧困問題についての文献検討については、同テーマについて扱っている基礎文献・資料等の取り寄せおよびその内容確認は行ったものの、それを体系的にまとめること、さらにはその成果を尺度として、同国の政治教育の貧困問題についてのカリキュラムを分析するまでには至らなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の研究は、次の3つの作業を中心に実施予定である。 第1に、ドイツの貧困問題に関する著作・資料を収集し、その内容をまとめていく。関連文献・資料の収集はすでに昨年度から実施しているが、現在、ドイツ経済の悪化等もあり、同国の経済および社会状況は悪化している。それに関する最新の資料についても、分析の対象に含める。 第2に、ドイツの政治教育における貧困問題の扱いについて、前述の1の成果に基づいてカリキュラム分析を行っていく。その際、「民主主義」「経済問題」「社会階層」等を扱う複数の単元に注目し、その主な学習目標、習得を目指す能力(コンピテンシー)、および主な資料・データの内容を分析していく。この作業では、前述の1の成果を尺度として用いることで、ドイツの政治教育の内容が学問的成果を踏まえているか、批判的な政治・社会の学習を可能とするものになっているかどうかを明らかにしていく。 そして第3に、ドイツの学校における政治教育を観察し、その貧困問題の実際の授業展開を明らかにしていく。ただしこの点については、新型コロナウイルスの流行の終息がいつになるか、またその後、ドイツの学校が部外者の授業参加を承認するかどうかにかかっており、今年度に必ず実施できるかは不明である。もし、こうした授業観察が難しくなった場合は、ドイツの政治教育の教員・元教員に対するインタビュー調査を実施し、そこでの貧困問題についての扱いについて明らかにするという代替手段をとる予定である。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルスにより、2020年2-3月に予定していた海外調査が中止となったため、次年度使用額が生じた。中止となった調査を今年度に実施予定。
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Research Products
(1 results)