2020 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
19K14247
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Research Institution | Tokyo Keizai University |
Principal Investigator |
寺田 佳孝 東京経済大学, 全学共通教育センター, 講師 (50705960)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 政治教育 / ドイツ / カリキュラム分析 / 教科書分析 / ドイツとトルコ / 民主主義 / 授業分析 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度に実施した作業は、大きく次の3点にまとめられる。 第1に、経済問題の学習を含むドイツの政治教育の実態がどのように展開しているのかについて、同国の政治教育の指導要領、教科書、および実際の授業の分析を実施した。その結果、同国の政治教育においては、政治や経済に関する制度や知識の暗記ではなく、むしろ実際の政治・経済・社会問題を扱い、それについての生徒の意見形成を重視していることを明らかにした。とりわけ注目した経済問題として「ベーシックインカム(Grundeinkommen)」をめぐる議論と政治教育に関する論考および同テーマの教材を分析した。 第2に、ドイツの政治教育の視点が、日本の政治・経済問題の教育を考える際にどのように分析され、扱われてきたのかについて、日独の戦後の教育史について整理、分析した。日本では戦後初期、国際政治情勢・社会問題との関係でドイツの政治教育が分析されていた。これに対し、70年代以降、社会理論を手がかりとしたドイツの政治教授学が関心を集め、政治教育のカリキュラム分析、とくに具体的なテーマ設定(労働問題や世代関係、アイデンティティの作成等)に関する分析が増加した。 そして第3に、ドイツの政治教育に関し、同国で暮らす外国にルーツを持つグループがどのように学んでいるのかについて、分析を開始した。具体的には、同国で暮らすトルコ系の住民について、どのような(政治)教育を受けているのか、ドイツにおける政治教育について、どのような意見や感想を持っているのかについて、関連文献の収集および調査の準備を開始した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
遅れている理由は大きく2点ある。 第1に、最大の理由として、新型コロナウイルスの影響により、今年度に予定していたドイツでの授業調査およびインタビューができなくなってしまった。今年度は8月および3月の2度にわたってドイツの学校を訪問し、政治の授業を分析、現場の教員および政治教育学者へのインタビューを予定していた。ただし、現在の新型コロナウイルスの流行のため、実現の見通しが立っていない。 第2に、本テーマに関するドイツにおける研究活動が停滞している。新型コロナの流行のため、遠隔授業の可能性やIT機材の開発等が活発に議論されている一方、政治教育をめぐる従来の論点(ポピュリズム、ジュニア選挙、移民・難民問題等)に焦点が当たりにくくなっている。 以上の状況に関し、以下のような代替案を構想している。 第1に、ドイツでの現地調査の代わりに、2020年以前の調査の際の政治教育に関する授業記録、インターネットを活用した政治教育の教員・研究者への調査を実施する。また、政治の指導要領および教科書の教育内容を中心に分析を進める。 第2に、経済問題の教育を分析する際、政治・経済的に難しい立場に置かれやすい移民の背景を持つ人々の存在は無視できない。そこで、ドイツ国内の移民の背景を持つ人々が、政治教育を通じてどのような学びを経験しているのか分析していく。本調査についても、主にインターネットを活用する。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究に関し、政治教育のなかでの経済問題のカリキュラム、経済問題を含むドイツの政治教育の教授法・授業展開については、一定の分析を終え、著書・論文として発行している。今後は、以下の3点を明らかにすることを目指す。 第1に、ドイツの経済問題の教育をより具体的に明らかにするため、インターネットを活用し、教員および研究者へのインタビューを通じてその授業実態を明らかにしていく。とくに、教育上問題を抱えるような学校において、経済問題をどのように学ばせようとしているのか、どのような教材・教授法を活用しているのか、どのような問題が起こっているのかについて明らかにしていく。 第2に、経済問題のカリキュラムについて、教科書および具体的な教材分析を行う。その際、経済政策としてドイツで論点となっている「ベーシック・インカム」をめぐる議論に注目する。 第3に、政治・経済問題を考える際、ドイツにおける移民の背景を持った学習者の学びについて明らかにしていく。具体的には、トルコ系の背景を持つ子どもたちについて、どのように政治・経済を学んでいるか、ドイツの民主主義をどう考えているか、とくにトルコの教育とどのように異なるのか、ドイツ人以外の目から見たドイツ式の政治教育をどのように考えるか等の観点を明らかにする。この作業は、インターネットを活用し、現地(ドイツ)のトルコ系住民へのインタビューをすると同時に、かれらが使用している教科書の教材分析を用いて進める。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルスの流行により、2020年度に予定していた海外調査が中止となったため、次年度使用額が生じた。中止となった調査を来年度に実施予定。
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Research Products
(2 results)