2021 Fiscal Year Research-status Report
縦断データの変化、関係性および集団差に関する頑健な推定法の開発と心理学への応用
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19K14378
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
宇佐美 慧 東京大学, 大学院教育学研究科(教育学部), 准教授 (20735394)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 縦断データ / 因果推論 / クロスラグモデル / 交差遅延モデル / 周辺構造モデル / 構造ネストモデル / 共変数 / 個人内変化 |
Outline of Annual Research Achievements |
小学生を対象に毎年実施して得た保健調査データのように、複数の個人から継続的に収集して得たデータを縦断データと呼ぶ。本研究課題では、縦断データ分析に伴う様々なモデルの誤設定の問題を取り上げ、その影響下でも高い推定精度を有する頑健な方法を確立するための研究を行う。 本年度は、昨年度に引き続き「複数の変数に関する個人内変化の関係性についての頑健な因果推論の方法の開発」・「教育・発達心理学への提案手法の応用とモデルの誤設定への統合的対処法の提案」の2つの研究課題に重点的に取り組んだ。 cross-lagged panel model (CLPM)は縦断的に収集された複数の変数間の相互関係を推測する為に広く利用されている。一方、Random Intercept CLPM (RI-CLPM)と呼ばれる、個人内変化に基づく推測のアプローチが近年注目を集めている。一般に因果推論では交絡変数の統制が重要となるが、RI-CLPMでは、交絡変数を含めたモデル内の変数間の線形性を通常仮定する。 本研究では、構造ネストモデルや周辺構造モデル等の疫学で提案された因果推論の枠組を援用しながら、線形性に関するモデルの誤設定に対して頑健であり、かつRI-CLPMのような個人内変化に基づく因果推論を行うための方法論の開発を行った。個人内変化に基づく因果推論における因果モデルや因果効果、およびその識別条件の精緻化も併せて行い、昨年度に引き続き、数千名の大規模コホートから得られた発達データへの提案手法の適用事例も示した。本研究の成果をまとめた論文は主要国際誌でminor revisionの評価となり、後続の研究に繋がる重要な進展が得られた。 さらに本研究課題に付随して、相互(個人内)関係を推測する目的で利用される様々な統計モデルの研究の展開をまとめた解説論文を執筆し、本研究のアプローチの意義と展望も併せて述べた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度、「複数の変数に関する個人内変化の関係性についての頑健な因果推論の方法の開発」に関わる研究成果について論文化を行い、主要国際誌でminor revisionの評価となった。他の因果モデルを想定した場合の同様の頑健な推測手法の開発など、後続の理論・応用研究に繋がる重要な進展が得られた。加えて、相互(または、個人内)関係を推測する目的で利用される様々な統計モデルの研究の展開や数学的・概念的な相違点・類似点をまとめた解説論文(http://usami-lab.com/Usami_2022_jsdp.pdf)を執筆し、利用者にとって一般に重要な問題となる統計モデルの選択に関する交通整理を行うとともに、本研究の頑健なアプローチを採用する意義を伝えることもできた。 このように本研究課題については今後の研究の機軸となる重要な成果が得られた一方、「時間依存効果を考慮した縦断的変化のモデリングにおける頑健な推定法の開発」および「構造方程式モデリング決定木(SEMTree)による分類精度の検証と、頑健なモデル設定法の提案」の2点に関わる研究課題は今年度早期に進める必要がある。また、上述の研究課題の進展に鑑みて、頑健なアプローチである提案手法を用いた、発達科学・心理学・医学領域のデータを中心とした分析事例の蓄積も今後慎重かつ迅速に進める必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
「複数の変数に関する個人内変化の関係性についての頑健な因果推論の方法の開発」の研究課題については、様々なデータ発生プロセスを踏まえた、既存の統計モデルを用いた場合と提案手法の間での因果効果の推定精度の比較検討やその数理的分析、さらには個人効果(または安定的特性:stable trait)について異なる因果モデルを想定した場合の頑健な推測手法の開発とその有効性の検証を、分析事例の蓄積と併せて進めていく。また縦断研究における個人内関係の推測に対する応用実践上のニーズが近年飛躍的に高まっていることにも鑑みて、この点に関する近年の研究の展開を含めた書籍の執筆も並行して進めていく。 「時間依存効果を考慮した縦断的変化のモデリングにおける頑健な推定法の開発」の課題については、セミパラメトリックな方法やベイズ統計学を援用しながら、分布の形状等の仮定に対してロバストでありながらも、測定時点数が小さい条件下でも安定的な推測を可能にするための方法を開発する。さらに、「構造方程式モデリング決定木(SEMTree)による分類精度の検証と、頑健なモデル設定法の提案」の課題については、段階的な推定方法の有効性や、ノード間の母数の等質性に関する頑健な設定の手続きを検討する。
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Causes of Carryover |
COVID-19の影響により対面による国際共同研究の中断、ならびに国際学会・国内学会のオンライン開催(または中止)に伴って旅費の支出がなくなったため。今年度、情勢に最大限留意しながら、本研究課題に係る国際共同研究を可能な範囲でを幅広く展開し、国内外の学会発表についても行っていく。
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