2019 Fiscal Year Research-status Report
舞踊の発達的起源の検討:舞踊の階層性に関する発達認知科学的研究
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19K14477
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
山本 絵里子 慶應義塾大学, 先導研究センター(三田), 特任助教 (50572202)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 運動 / 階層性 / 発達 / 舞踊 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、身体運動の階層構造を創作する能力の発達過程の解明に向けて、2つの研究成果を得た。 研究1:生後1年以内の乳児期に原初的な舞踊行動が出現することを明らかにした。本研究では、乳児が9ヶ月、12ヶ月、15ヶ月、及び18ヶ月の時点で、その保護者に対して質問紙調査を実施した。保護者は、日本語マッカーサー乳幼児言語発達質問紙「語と身振り」(小椋・綿巻,2004)及び、子どもの「おどり」の構造についての質問紙に回答した。質問紙の結果、乳児の月齢とともに、「子どもはおどる」に「はい」と回答した割合は増加した。そして、9ヶ月から12ヶ月児の保護者は「腕を振る」といった単一の行動の繰り返しを子どもの「おどり」として報告した。立位での姿勢維持が可能な12ヶ月児の保護者は複数の行動を系列として組み合わせ、そして、繰り返す行動を「おどり」として報告した。これらの結果は、生後1年以内の乳児期に原初的な舞踊行動が出現すること、及び9ヶ月から12ヶ月にかけて乳児の「おどり」の構造が階層化する可能性を示した。 研究2:幼児において身体運動のリズムの認知に関わる脳活動を明らかにした。本研究では、5歳児を対象にした。そして、NIRS装置を用いて、歩行動作の刺激を観察している間の大脳皮質のヘモグロビン濃度を計測した。歩行動作の刺激には、歩行周期が一定の規則刺激、及び、歩行周期が不規則な不規則刺激があった。研究の結果、規則刺激と比較して不規則刺激に対して、左下前頭葉付近の脳領域に強い活動がみられた。この結果は、5歳児において、身体運動のリズムの認知に左の下前頭葉付近の脳領域が関与している可能性を示した。 本研究の成果は、行動と脳活動のレベルから、舞踊行動の根底にある身体運動の階層性の発達モデルの枠組みを提供する点で重要である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は研究計画に従い研究を実施した。当初予定していた研究計画に関する研究環境を整え、研究を実施した。そして、舞踊行動の根底にある身体運動の階層性の発達的変化を明らかにするための2つの主要な成果を得た。具体的には下記の通りである。 研究計画1では、乳幼児期の自発的な身体運動の構造を縦断的及び横断的に分析し、乳幼児期の身体運動の階層構造の発達的変化の解明を目指している。本年度は、質問紙研究から、生後1年以内の乳児期に原初的な舞踊行動が出現すること、そして、9ヶ月から12ヶ月にかけて乳児の「おどり」の構造が階層化する可能性を示した。また、乳幼児から児童までの自発的な身体運動のデータを記録、及び、収集を開始した。しかしながら、乳幼児(7ヶ月児、18ヶ月児、24ヶ月児、36ヶ月児、48ヶ月児)の身体運動のデータ量は当初の予定より少ない。 研究計画2では、乳幼児における身体運動の階層構造の複雑性に関連した脳活動を分析し、乳幼児期の身体運動の階層構造を創作する能力に関わる脳活動を明らかにする。本年度は、5歳児において、身体運動のリズムの認知に左の下前頭葉付近の脳領域が関与している可能性を示した。 以上の理由により、本年度はおおむね順調に進展していると報告した。
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Strategy for Future Research Activity |
初年度に続き2年目では、身体運動の階層構造を創作する能力の発達過程を検討するため、乳幼児期から児童期の子どもたちの膨大な身体運動のデータを収集する。そして、それらの身体運動のデータの動作解析を実施する予定である。加えて、本年度得られた神経科学的知見と技術をもとに、乳幼児において、身体運動の階層構造の複雑性に関連した脳機能研究に取り組んでいきたいと考えている。 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のため、2020年2月頃より、当初予定していた研究の実施が困難となっている。特に、実験室における乳幼児研究の再開の見通しが立っていない。そのため、本研究計画では研究方法を変更する予定である。具体的には、メール・Webを利用して、乳幼児期の身体運動のデータを収集する。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由として、初年度において、身体運動のデータ収集環境の準備と整備に時間がかかり、当初予定していたデータ量を収集することができなかった点が挙げられる。そのため、人件費・謝金(実験参加、及び、解析補助)が次年度使用額となった。また、当初参加を予定していた学会に新型コロナウィルスの影響で参加できなかった、もしくは、中止となったため出張費にも変更が生じた。 次年度では、身体運動の階層構造を創作する能力の発達過程を検討するため、乳幼児期から児童期の子どもたちの身体運動のデータを収集する予定である。その際に、これまでの研究計画に加えて、オンライン調査、及び、郵送調査を計画している。これらの調査では、保護者に乳幼児の身体運動の撮影を依頼し、その動画を収集する予定である。その際に、映像記録装置、及び、記録媒体が必要となり、合計20万円の物品費を計上する。また、追加調査で必要な120名分の謝金・その他(郵送費)26万円を計上する。
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