2020 Fiscal Year Research-status Report
ランダム力学系におけるホモクリニック接触の幾何と統計
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19K14575
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Research Institution | Tokai University |
Principal Investigator |
中野 雄史 東海大学, 理学部, 講師 (50778313)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | ホモクリニック接触 / 非正則集合 / Markov作用素 / 擬収縮性 |
Outline of Annual Research Achievements |
昨年度に引き続き、ランダム力学系におけるホモクリニック接触に関する研究を行った。決定論的力学系においては、ホモクリニック接触を持つ力学系に対しては、時間平均が存在しないような点の集合(非正則集合)がLebesgue測度正となる例を豊富に作れることが知られている。一方でV. Araujoは2000年に、「独立同分布な物理ノイズ下では非正則集合がLebesgue測度零になる」(つまり、非正則集合という非常に複雑な統計を持つ部分がノイズにより消滅する)という結果を証明した。これはPalis予想への部分的貢献など可微分力学系理論に少なくない影響を与えたが、その後目立った進展はなかった。これに関連して次のような結果を得た。 (1) Araujoの証明は幾何的であったが、報告者はMarkov作用素コサイクルという全く別の視点から物理ノイズについて考察し、Araujoの結果を非独立同分布な物理ノイズへ一般化することに成功した。その中では、報告者が以前から中村文彦氏(北見工業大)と共同で研究していたMarkov作用素コサイクルの擬収縮性・漸近周期性が本質的に重要になることが判明し、報告者にとっても予想外の形での進展となった。 (2) ホモクリニック接触を持ち、非正則集合がLebesgue測度正である古典的な例としてBowenによる平面流れがある。Araujoの結果から、このBowen流れについても物理ノイズ下では非正則集合はLebesgue測度零になるが、報告者は中村文彦氏、豊川永喜氏(九州大)と共同で、非物理的なノイズに対してもBowen流れの非正則集合が消滅しうる(Lebesgue測度零になる)ことを示した。 これらの結果および、関連するA. Zelerowicz, P. Barrientos, A. Raibekas, M. Roldan各氏との共同研究結果を学会発表し、4編論文投稿した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ランダム力学系の非正則集合に関する研究が作用素論的視点という本質的に新しい方向から進展し、また関連論文も4編論文投稿された。そのため、本研究は順調に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度はMarkov作用素コサイクルという予想外の方向からの研究進展があったため、昨年度に予定していた方向からの研究調査に十分時間を割くことができなかった。そのため来年度は、 (1) 今一度、昨年度の方針に戻って研究を行いつつ、 (2) さらに今年度の結果を発展させる形で研究を行う 予定である。具体的には次の通りとなる。 (1)について:ホモクリニック接触を持つ決定論的力学系を微小摂動すると無限個の吸引周期点を構成できる(無限個の観測可能な時間平均を持つ)ことが知られており、結果として非双曲力学系特有の統計が現れる。これに関して、ランダムなホモクリニック接触を持つ力学系を微小摂動した場合でも類似の結果が得られるかを確認する予定である。また、関連して持続的なランダムなホモクリニック接触を構成できるかを、(決定論的力学系の場合と同様)対応するランダムthicknessの導入とその摂動安定性の解析によって、確認する予定である。 (2)について:Araujoの結果において、ノイズの「物理性」がどの程度不可欠であるかを検討する予定である。具体的には、Markov作用素の擬収縮性の観点からは、「物理性」のエルゴード論的な要求は強すぎると予想されるので、この一般化を検討する。また、中村・豊川氏との共同研究で幾何的な考察により非物理的なノイズに対しても非正則集合が消滅しうることが示されたが、この例はやや限定的であったため、より一般的な枠組みで同様の結果を得ることができないか検討する予定である。
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Causes of Carryover |
国外・県外の研究集会に出張することを計画していたが、 COVID-19の世界的蔓延のため計画が立ち消えとなり、未使用額が生じた。COVID-19の影響が無くなることを前提としてであるが、次年度に研究打合せのため招聘する国内外の研究者を増やし、未使用額をその経費に充当することとしたい。
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Research Products
(9 results)