2020 Fiscal Year Research-status Report
開放量子系の非エルミート縮退点を活用した新奇なトポロジカル量子ポンプの理論構築
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19K14611
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Research Institution | University of Yamanashi |
Principal Investigator |
橋本 一成 山梨大学, 大学院総合研究部, 助教 (10754591)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 非平衡統計力学 / 非エルミート系 / 量子輸送 / 量子ドット |
Outline of Annual Research Achievements |
近年,ダイナミクスが非エルミート演算子で記述される物理系が注目を集めている。微小量子系が巨視的な環境と相互作用してる開放量子系は非エルミート演算子の典型例の一つである。開放量子系の中でも実験的研究が盛んに行われているものの一つが量子ドットを介した電子輸送現象である。当該年度の研究では,2重量子ドットが左右2つの電極とトンネル接合してる系を研究し,この系における電子の非平衡ダイナミクスを記述するマスター方程式の非エルミート超演算子が例外点を有することを明らかにした。この例外点は,固有モードの緩和率を表す固有値の実部が有限である緩和モードに現れる。そのため,その物理的効果は,定常電流など,固有値が0である時間的に変化しない定常モードだけが関与する物理量には発現しないことがわかった。 2重量子ドット系が有する例外点の物理的効果の実験的検出の可能性を検討するため,当該年度の研究では電極間を流れる電流の定常状態に対する自己相関関数のパワースペクトルで定義される定常ノイズに注目した。例外点を有しない系における電子輸送では,定常ノイズの周波数スペクトルは,超演算子の複素固有値の実部で決まる幅を有するローレンツ関数の重ね合わせとなる。一方,本研究では例外点が定常ノイズの周波数スペクトルに非ローレンツ型の寄与を与えることを明らかにした。量子ドット系における電流の定常ノイズは,電子輸送における量子効果の情報を含むため非常に重要であり,精密な測定を可能とする実験技術が精力的に開発されてきた。そのため,本研究で明らかにした例外点がノイズに与える影響は,例外点が量子輸送に与える効果を実験的に検出する上で重要な知見を与えるものであると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
量子ポンピングに対する例外点の影響に関する研究の進展が遅れている。通常トポロジカル量子ポンピングが論じられているのは,ゼロ固有値に対応する定常モードのみが関与する断熱極限である。一方本研究で発見した超演算子の例外点は,いずれも断熱極限のダイナミクスに関与しない緩和モードに現れるため,通常の意味でのトポロジカル量子ポンピングには関与しないことがわかった。
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Strategy for Future Research Activity |
断熱極限を取り払った非断熱量子ポンピングを研究し,緩和モードに現れた例外点が量子ポンピングに与える効果について検討する。
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Causes of Carryover |
当該年度は新型コロナウィルス感染症パンデミックにより参加予定であった国際会議,国内学会が全て中止ないしオンライン開催となったため,旅費としての使用を予定していた経費をほとんど使用できなかった。また,研究協力者との相互行き来も全て取りやめとなったため,そのための経費も使用できなかった。2021年度においても旅費等の経費使用が難しい状況は変化しない見通しであるが,論文の投稿料や英文構成費などとして使用する予定である。
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Research Products
(6 results)