2020 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
19K14715
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Research Institution | High Energy Accelerator Research Organization |
Principal Investigator |
伊形 尚久 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 素粒子原子核研究所, 博士研究員 (40711487)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 一般相対論 / ブラックホール / シャドウ / 対称性 |
Outline of Annual Research Achievements |
ブラックホールの影(シャドウ)が発見された。M87銀河の中心領域の画像の、中央に位置する暗いスポットである。 「これは本当にブラックホールによるものなのだろうか?」 この疑問はもっともだ。なぜなら、シャドウの形成は、ブラックホールに限られた現象ではないからである。科学的にこの問いに答えるためには、ホライズン(ブラックホールの境界面)により近い領域を今後さらに解像し続け、ブラックホールではない可能性を否定し続けなければならない。ブラックホールは、直接見ることが原理的にできないからだ。 では、ホライズンのごく近傍における現象は、実質的に観測ができるのだろうか。これを明らかにすることが本研究の目的である。今年度は、ホライズン近傍で放射された光子の「脱出」に着目した。ある光子が、無限遠へ脱出するのか、あるいはブラックホールへ落下するのかは、放射の位置と向きで決まる。このことを「光子の脱出条件」として整理し、回転ブラックホール時空(カー解)において完全に分類した。これは、本研究計画を進める上で基盤となる成果の一つである。 この成果を踏まえて、ブラックホールの観測可能性の指標となる、光子の「脱出確率」に着目した。実質的に観測できない領域を、脱出確率が50%を下回る領域と仮定した。また、自然に実現される光源の候補として、ブラックホール時空の最内安定円軌道からホライズンへと落下するものを想定している。 本研究により、以下のことが明らかになった。光源が徐々にホライズンへと近づくにつれ、脱出確率は単調に減少する。この過程から決まる、実質的に観測ができる/できない領域の境界は、最内安定円軌道半径とホライズン半径のおよそ中間であった。いわばこの最終半径が、この光源が観測できる実質的な限界であるといえる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は、回転ブラックホール時空における光子の脱出条件を明らかにした上で、脱出する光子のもつパラメタ領域を完全に分類した。この条件を決定づける本質的な要素が、研究開始の当初から継続して知見を得てきた「球面光子軌道(spherical photon orbits)」であった。この光子軌道が、光子の脱出、ひいてはホライズン近傍の観測可能性において、計画当初の予想を上回る役割を果たしていることが明らかになった。 こうして達成された脱出条件の完全分類は、本研究のさらなる発展の基盤として有用である。この成果を活用することで、今年度の後半には光子の脱出確率の解析を円滑に進めることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は、光子の脱出確率という指標に基づいて、ホライズンの近傍における現象が実質的に観測可能であるかを検証した。これに対して、光子のエネルギーに関する視点をとりいれたい。これを次年度の基本方針とする。 具体的には、光子の「振動数偏移」に着目する。一般に、放射点と観測点のそれぞれにおける光子のエネルギーには違いが生じる。これを決定づける要素は、「重力赤方偏移」と光源の固有運動による「ドップラー偏移」である。観測可能であるためには、受けとる光子のエネルギーが観測の帯域に入っていなければならない。このことを踏まえて、振動数偏移と脱出確率の両面から、ホライズン近傍における現象の観測可能性を検証する。 これら結果を統合することで、直接的な観測量であるエネルギーフラックスを評価する。これにより、3年目の研究計画を推進する。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染症の感染拡大を防止するため措置として、出張を伴う研究打ち合わせ、および学会・研究会への参加は全てキャンセルした。ただし、オンラインにて開催された学会・研究会については、当初の予定どおり参加し、成果の報告を行っている。これに伴って、今年度に予定していた研究成果の報告のための使用計画を一部、次年度へと延期する。また、オンラインによる研究活動が増加したことで新たに必要となった備品を揃えるために使用することを計画している。
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