2019 Fiscal Year Research-status Report
火星の角礫岩隕石Black Beautyには火星の有機物が保存されているのか?
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19K14780
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
菅 大暉 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 特任研究員 (70827568)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 火星隕石 / STXM / TEM / NanoSIMS / 有機物 / 放射光 / 有機無機相互作用 / 火星 |
Outline of Annual Research Achievements |
令和元年度は、これまで予備的であった「水素同位体比 (δD) が1,000 ‰近い有機物の発見」を確固たるものとするために追加分析を行なった。その結果同様の特徴を示す有機物をさらに発見することができた。これは火星表層を構成する物質の値に非常に近く、炭素同位体比 (δ13C) の結果も火星由来を支持していたため、Black Beautyには火星の有機物が含まれている根拠をさらに重ねることができた。STXMとNanoSIMSから得られた有機物の化学種・同位体特徴をこれまでに得られている地球内外の有機物分析結果と比較すると、惑星間塵の結果に最も近いことがわかった。だが同時に、一般的な惑星間塵に比べて圧倒的にN含有量が多く同位体比が全く異なるという矛盾した結果も得ている。そのため、火星でのもう1つの有機物の起源の可能性として、還元的大気を持つ惑星・衛星のエアロゾルを模擬した試料(模擬エアロゾル)の分析も行った。未だ人類は地球外惑星のエアロゾルの採取には成功していないため、このエアロゾルが正確に還元的大気を持つ天体(例えばタイタンなど)のエアロゾルを模擬できているかは不確かであるが、C, N, O-XANESの特徴などからは、この模擬エアロゾルが最もBlack Beautyの有機物の特徴に近い(地球にて合成しているため、同位体比は模擬不可能)。上記の理由から、火星起源とは言い切れないが、地球外に起源を持つことは明白である。そして隕石の起源などを考慮すると、妥当な結果としては「火星の有機物」であろう。ゆえに本研究の目的の内(1)火星角礫岩隕石から火星表層由来の有機物の発見は達成できたと言える。(2)「有機物と鉱物の共進化過程の解明とその起源」に関しては有機物が粘土鉱物やハライトを包埋していることから、何らかの熱水反応を経験しているようであり、これからという所である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
有機物の加工と分析に関してはノウハウの蓄積もあり、問題なく進んでいる。また、有機物から得た結果を補足するために、形成時の酸化還元状態などが明らかになりそうな無機鉱物相(マンガン酸化物など)の試料作製・分析を試みたものの、これらの部分は変質により形成された部分と考えられ、非常に脆く、FIB による加工が困難であった。この部分に関しては来年度以降にビーム強度・試料状態などを調整して取り組むつもりである。加えて、火星類似フィールドとして、草津温泉沈殿物の採取・分析を行うなど、標準物質の採取・分析も順調である。このように試料作製等に関しては概ね問題なく進んでおり、分析・結果解析に関しても同じである。 一方で成果発表や出張を伴う分析に関してだが、COVID-19の影響により予定していた出張が行えなくなったため、学会発表や、NanoSIMS・TEM 分析が一部行えていない。学会発表に関しては、状況次第では令和2年度に改めて最低限の発表を行う予定である。また、出張を伴う分析も最低限必要な結果を得ているが、可能であれば令和2年度に再度行いたい。実験遂行等には支障は出ているものの、研究計画段階としては順調に研究を推進していると考えている。また、今年度の研究推進(標準物質の分析結果なども含む)によって、いくつかの論文発表・学会発表を行うことができた。
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Strategy for Future Research Activity |
基本的には、研究計画調書の流れに沿って研究を遂行するつもりである。令和2年度は引き続くCOVID-19の影響により、予定出張の制限や、共同研究などの停滞が予測されるが、可能な部分(例えば、標準試料の分析は出来なくても、取得・採取などは行っておき、状況変化に応じていつでも分析可能な段階までは準備をしておく予定)から断片的となっても推進する。特に試料作成がCOVID-19による移動制限により致命的な影響を受けるが基本的には最低限の分析試料は作製済みであるため、手持ちの試料を用いて最小限の試料から最大限の結果を得られるように分析を工夫するよう努める。この部分に関して、令和2年度初頭に研究代表者の所属変更があったため、異動先の設備であるSPring-8を存分に活用したμ-XRF-XAFS・CT-XAFS・TXMなどの分析も必要に応じて実施する(出張なしで装置開発と放射光実験が可能であるため、この利点を活かす)。加えて、成果報告に関しても若干影響が生じるため、若干のプランとして論文化できる結果は順次行うことにする。具体的には、本来は「有機物の形成・進化過程を解明し、最も妥当な起源を決定」した上で1つの論文にする予定であったが、現状に対応するため「火星角礫岩隕石から火星表層由来の有機物の発見」の部分のみをまず論文化する。また、国際学会・国内学会などの研究会への参加は極力控えるつもりである。
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Causes of Carryover |
日本国内におけるCOVID-19の蔓延に起因した出張・学会参加の禁止により計画の実行中止を余儀なくされたため。
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Research Products
(13 results)
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[Presentation] 超伝導転移端センサー検出器(TES)を用いた蛍光XAFS法による地球化学・環境化学試料中の微量元素の化学種解析2019
Author(s)
高橋嘉夫, 山田真也, 関澤央輝, 板井啓明, 田中雅人, 栗原雄一, 柏原輝彦, 坂田昂平, 三浦輝, 栗栖美菜子, 長澤真, 早川亮大, 大井かなえ, 須田博貴, 竜野秀行, 岡田信二, 奥村拓馬, 橋本直, 一戸悠人, 林佑, 今井悠喜, 野田博文, 神代暁, 宇留賀朋哉, 菅大暉
Organizer
2019年度日本地球化学会第66回年会
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