2020 Fiscal Year Research-status Report
原始地球のマグマオーシャンが、巨大衝突と地球-月系の形成に与える影響の評価
Project/Area Number |
19K14826
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
細野 七月 神戸大学, 理学研究科, 特命助教 (70736298)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 月形成 / 巨大衝突 |
Outline of Annual Research Achievements |
地球の月がどの様に形成されたかは、惑星科学や地球科学の分野において、非常に重要な問題である。月形成シナリオとして最も有力な仮説なのは巨大衝突説であるが、この説には地球と月の同位体比が極めて高い精度で一致するという測定結果を説明する事が出来ないという問題が存在した。 この問題を解決するための仮設として、近年、マグマオーシャンと呼ばれる、液体岩石の海が提唱された。本研究の目的は、この地球のマグマオーシャンがどの程度巨大衝突の結果に影響を与えるかに関して、最新の数値計算技術を用いて調べることである。 数値計算でもって月形成の巨大衝突を行う際に重要なのは、扱いたい物質に対して適切な状態方程式を選択する事である。まず、地球の固体マントル部分に対しては、ANEOSと呼ばれる状態方程式が広く用いられてきた。一方近年、このANEOSに対し、いくつかのアップデートが行ったという論文が出版された。これらのアップデートされた状態方程式を用いた巨大衝突の数値計算に関しては、まだ詳しく調べられていない。また、マグマオーシャンの様な液体岩石の状態方程式に関しては、これまで適切な状態方程式での数値計算は行われてこなかった。本研究では、分子動力学などでよく用いられているHard sphereモデルを用いた物を使用して数値計算を行う事にした。 本年度では、これらの状態方程式を導入した数値計算コードの開発を行い、また、実際にそれを用いて巨大衝突の数値計算を行い、状態方程式の違いがどの程度月形成シナリオに影響を与えるかを見積もった。その結果、マグマオーシャンが原始地球に存在する場合、地球と月の組成の一致を説明出来る可能性があることを発見した。 本研究の成果は現在論文としてまとめており、近日投稿予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究の遂行には、大規模な数値計算が可能な環境が必須である。したがって、最新の技術を用いた計算機を導入した。具体的には、加速器と呼ばれる装置を持った計算機を購入し、その上で数値計算を行った。本計算機は、本来であれば昨年度に購入し、納品されている予定であったが、近年のAI及び仮想通貨マイニングの需要などから加速器の納品に遅れが生じ、実際に納品されたのは今年度の中頃であった。したがって、本研究に必要なコードの開発には、やや遅れが生じている。 また、学会などでの発表に関しても、COVID-19の影響により、参加予定だった国際会議などのキャンセルが発生し、こちらもやや遅れが生じていると言える。 一方で、ANEOS等の導入や数値計算に関しては順調に進み、今年度中にある程度の計算を終わらせ、まとめて論文化する見通しがたった。したがって、全体の進捗としては、「やや遅れている」程度であると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度の研究では、状態方程式に焦点を絞り、月形成に与える影響を見積もった。しかしながら、巨大衝突には状態方程式のみならず、衝突の角度や速度、更には衝突する天体どうしの質量の比など、様々なパラメータが存在している。月の形成について論じる際には、どの程度の確率で月が形成されうるかを議論することも重要である。そこで、今後は広いパラメータでの計算を行い、形成確率に関して議論する必要予定である。
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Causes of Carryover |
COVID-19の影響により、国際学会がキャンセルまたはオンライン化した影響により、旅費として計上していた予算に差分が生じた。 次年度も、現在のところ国際研究会などに関して非オンラインでの参加の予定は無いため、旅費や宿泊費としての使用の目処は立っていない。従って、次年度は現在執筆中の論文の投稿料及び購入した計算機に導入する追加のハードディスクなどに使用する予定である。
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