2020 Fiscal Year Research-status Report
樹脂粉末床溶融結合におけるパートケーキ冷却のためのクラック制御と造形品質の安定化
Project/Area Number |
19K14867
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Research Institution | Tokyo Metropolitan Industrial Technology Research Institute |
Principal Investigator |
小林 隆一 地方独立行政法人東京都立産業技術研究センター, 事業化支援本部技術開発支援部3Dものづくりセクター, 副主任研究員 (30707112)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 付加製造 / 粉末床溶融結合 / パートケーキ / クラック / 冷却工程制御 |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年度はパートケーキに進展するクラック発生要因の再調査を行った。計画当初に想定していたクラックの発生要因以外に「粉末床において、レーザで溶融させた領域(つまり造形物)の側面と未溶融の粉末の境界は溶融直後に接触していない場合が存在する」という可能性が出てきたため実施した。 そこで、前述の境界が溶融直後から接触していない可能性を検証する実験を行った。積層中に接触状態を観察することは困難なため、造形物側面と粉末が高確率で接触する条件および通常条件で造形し、その側面の状態を観察することで検証を行った。具体的には①「低出力レーザによって部分的に半焼結させた粉面に対して、半焼結させた部分が境界面となるように溶融させた際の造形品側面」と②通常条件の側面を比較した。①で半焼結体となっている部分は粉末同士があらかじめヒョウタンのような部分接合を形成するため、部分接合を介して溶融部と半焼結部は確実に接触することが期待できるが、②では接触が不確実である確率を排除できない。この実験で②のみ面荒れが発生しやすいという結果が得られたことから、隣接する溶融部の側面と未溶融粉末がレーザによる溶融直後から接触していない場合が存在する可能性が高いといえる。加えて、造形品側面と粉末境界のX線CTスキャンを実施したところ、側面と粉末の間に空間が観察されたため、前述の可能性を支持する結果となった。 これらの検証を通して、境界部の事前制御が側面面荒れ抑制に極めて重要であることがわかり、本件に関して特許を出願した。 次に、隣接する円筒形状におけるクラック抑制について当初計画通りに検討した。円筒間をランナーで接続し、円筒間にクラックが進展するかを調査したが、前述の溶融直後の未接触を起点としたクラックが発生することを確認した。つまり、少なくともオレンジピールの抑制なくしてはクラックの制御はできないことが分かった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初は想定していなかった新たなクラック発生要因の検証のため、本年度の計画であったクラックの抑制方法確立についてはやや遅れている。一方で、隣接する溶融部の側面と未溶融粉末がレーザによる溶融直後から接触していないケースの検証によって、溶融部境界を事前に半焼結しておくことが側面の面荒れを劇的に減少させる効果があることが分かった。側面の面荒れはオレンジピールと呼ばれ、造形品の側面に意図せず発生する凹凸の激しい面であり、造形エラーとして認識されている。オレンジピールの発生は樹脂粉末床溶融結合における従来からの課題であったが、本研での取り組みによってオレンジピール抑制の可能性が大きく開かれたことから、本研究の大目的である造形品質の安定化については十分な進捗があった。これらを統合して、おおむね順調に進展したと判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
ここまでの研究から、オレンジピールの抑制を行わないとクラックの抑制は困難であることが分かった。すなわち、パーツの境界部分は半焼結体にする必要がある方針が立った。一方、Drummer.Dらが2019年に発表した論文で、PA12を用いた造形では積層中に結晶化が進んでいる可能性が高いことが示されたことから、機械的性質については積層中に決定される可能性が高い。すなわち、当初計画であったパートケーキ内の冷却プロファイルの均一化は機械的特性に大きく影響を与えない可能性が示唆された。 そこで、当初計画から実験の変更を行う。私が提案したクラック進展後にパートケーキに通気する高速冷却方法では、パートケーキ内部が再結晶化温度以下となった際にクラックが貫通するため、再結晶化温度までは従来の徐冷速度と変わりがない。高速冷却を実施しても造形品の機械的特性は変わらないことは検証済みである。そこで、2021年度はパートケーキ内部が再結晶化温度以下になる前に人工的にクラックを作り、そこに通気することでパートケーキの超高速冷却を実施する。超高速冷却での造形品寸法や機械的特性を調査によっても、当初目的であった冷却プロファイルと造形物の寸法や機械的性質の関係について答えを出すことができると考えられる。
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Causes of Carryover |
粉末が想定よりも安価に手に入ったため。差額は2021年度の実験変更に伴う消耗品購入費用に充てる。
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