2020 Fiscal Year Research-status Report
東アジアの港湾諸都市における建築コンバージョンのデザイン手法と都市文化の継承
Project/Area Number |
19K15190
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Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
角野 渉 東京都立大学, 都市環境科学研究科, 客員研究員 (30708128)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | コンバージョン / デザイン手法 / 港湾都市 / 都市文化 / 東アジア |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は中国、韓国、台湾の3カ国の港湾都市を対象とし、コンバージョン建築を都市文化の継承方法の一つとして捉え、都市の経済や発展史などからコンバージョン建築の成立背景を整理し、事例の建築意匠の分析から、都市文化の継承手法としての総合的な知見を獲得することを目的とする。 3ヶ年計画の2年目となる本年度は、当初計画による台湾の基隆・高尾の調査に加え、昨年度、新型コロナウィルスの感染拡大による非常事態宣言等により、現地調査が叶わなかった大連の調査を予定していた。しかし感染拡大の影響が収まることがなかったため、いずれの海外調査も断念した。その間、文献による対象各国の都市的背景の整理を進めるとともに、同じ東アジアである国内の港湾都市に目を向け、青森の都市とコンバージョン事例の調査を実施し、港湾開発が都市構造に与える影響や、人口動態による社会構造の変化と建築コンバージョンの関係といった新たな視点を獲得するに至った。 本研究において調査対象とする都市は、中国の上海・大連、台湾の高雄・基隆、韓国の釜山・仁川であり、それぞれが港湾都市として近代の西洋化の影響を受けつつ、現在も先進的な都市として各国を牽引する存在となっている。これらの都市に関する文献資料の収集と整理を進めている状況である。 実際のコンバージョン建築事例の調査を、中国の上海・大連、台湾の高尾・基隆のコンバージョン建築の実態把握を行うために、事前調査として、書籍や建築デザイン情報を掲載するWebサイトを通じてコンバージョン建築事例の存在を調査し、それぞれの所在の把握を行なった。大連、高尾、基隆の調査に関しては事前の文献調査を終えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
3ヶ年計画の本研究において、初年度は中国、第2年度は韓国、第3年度は台湾を対象とした調査研究を行う予定で、第2年度である本年は、台湾の港湾都市の基隆と高尾を対象とした調査研究を行うものである。 文献収集においては、都市発展史や文化、経済などといった都市的背景に関する文献と、建築コンバージョン事例を取り扱う文献、またそれらに関連した知見のための文献の収集が必要である。本年度は国内で入手できる文献の収集ができた。しかし、現地調査は複数回を予定していたために、新型コロナウィルス感染拡大による非常事態宣言等の影響により、現地調査により獲得するはずの情報や文献を得ることができず、昨年度から引き続き現地での文献収集は不十分な状況にある。 コンバージョン建築事例の現地調査に関して、海外事例を対比的に捉えることで知見を深めるため、国内の港湾都市に関する調査を実施した。2020年10月31日から11月2日にかけて青森・八戸調査を実施した。事前調査の段階で7件の対象事例を抽出し、全ての事例を訪問調査した。 また、台湾の基隆及び高尾、昨年度に調査を予定していた中国の大連に関しては、新型コロナウィルスの感染拡大による緊急事態宣言等の影響により現地調査が実施できていないため、現地調査は昨年度に引き続き次年度以降への持ち越しとなった。 青森の現地調査によって得られたコンバージョン建築事例に関しては、デザイン手法の分析を行った。具体的には既存建築の建設年代や転用年、変更前後の用途や規模によって分類を行い、残された部分と変更された部分とを明確にし、それらの構成を意匠的に分析することで都市的背景との関係において都市文化の継承手法を考察した。
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Strategy for Future Research Activity |
コンバージョン建築事例の意匠分析を通じて都市との関係を比較考察するため、都市的背景に関する文献調査に関しては、引き続き文献の収集と情報整理を行う。対象とする港湾諸都市におけるコンバージョン建築の現地調査に関しては、事前調査を同様に進める。また、近代期に開港して港湾都市となった都市と、近代以前から開港して港湾都市となった都市とを比較するため、江戸時代より外国貿易の港湾都市となった国内の長崎を調査対象に加えることとする。 本年度は感染症の影響で現地調査を遂行できなかったことにより、当初予定していた研究成果が十分に得られていない状況である。そのため、緊急事態宣言や渡航制限が解除され次第、速やかに海外現地調査を再開する。 本年度の青森調査の成果から、青森のコンバージョン建築事例は産業関連施設からの転用と、学校からの転用施設が多く確認された。前者に関しては、港湾開発により都市構造が変化していく中で、技術発展により使用されなくなった産業施設が転用されていることが多く確認された。後者に関しては、人口減少に伴う生徒数の減少により廃校となった小学校建築が、博物館などの文化施設へと転用されている事例が多く確認された。これらから、港湾施設整備が都市構造に与える変化や、人口縮小の影響による建物転用という、二つの転用要因の一端を明らかにすることができた。この知見は今後の台湾、中国、そして韓国の仁川・釜山に関する調査研究においても、都市構造と社会構造が変化する中での建築をどのように利活用するかを見ていく上で有用である。 今後の研究においては、以上のようにコンバージョン建築のデザイン手法の分析と並行して、都市的背景を整理するための情報収集と、今後の都市戦略に関する情報収集とを進める。昨年度から継続する本年度の遅れに加え、最終年度はまとめの時間も必要となるため、次年度は早い段階で現地調査の充実を目指す。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が発生した原因は、本年度予定していた台湾の基隆・高尾に加えて、昨年度調査予定だった中国の大連のコンバージョン建築事例の現地調査が、台風や新型コロナウィルスの感染拡大による社会状況によって中止したことである。本年度予定していた海外渡航は、次年度の緊急事態宣言の解消や外出自粛要請の解消など、状況が落ち着き次第遂行する予定である。次年度に当初から予定している現地調査については、予定通り実施する予定のため、次年度中に助成金使用計画額は使用することとなる。
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